映像のプロであるための仕組みづくり
「企画から納品まで社内で一貫して制作し、スピード、コストパフォーマンス、完成度に優れた映像を提供する。目指す映像制作の在り方はここにあります」と話すのは、エルロイ 代表取締役 和田篤司さん。それを実現するのが、日本映画の「組」(同じ監督の作品に同じスタッフが毎回参加する、映画撮影のチーム制度)に倣った制作体制だ。
同社ではディレクター、カメラマン、エディターなど多様な職能のスタッフや最新の機材を社内に抱え、自社で大半の業務を完結できる。「外注すると、映像のプロであるべき制作会社にノウハウが残らないんです。同じスタッフが制作に臨み、社内にノウハウを蓄積しスキルを高めることで、高いパフォーマンスが継続できるチームでありたいと考えています」(和田さん)。
また、働きすぎを抑制するために、社員全員の稼働状況がリアルタイムで把握できる制作管理システムを独自開発。業務時間を可視化し、負担を軽減してきた。既にDXを進めていたエルロイだが、新型コロナウイルスの感染拡大により出社が制限されると、これまでの仕組みでは立ち行かなくなってきた。
「正直業界の中でもDX が進んでいる方だと感じていましたが、実情はまだまだでした。『ハンコを押してもらうために出社する』『請求書を印刷し郵送する』といった業務は依然として残っていた。こうした業務をデジタル化し、社員の感染リスクを下げる。『紙・出社・ハンコ』から完全に脱却し、さらなる効率化を図るために既存のシステムをアップデート。2021年から運用を開始しました」(和田さん)。
ルーティンワークはシステムに任せ、クリエイティブに注力
システム名は、MILL(ミル)。広告やコンテンツの制作業務に特化したシステムで、顧客、売上、予算、勤怠、備品、経理、精算などが一括管理できる。MILLが情報を集約するため、さまざまなデジタルツールを導入して逆に情報が拡散し煩雑になるということもない。
便利な機能のひとつが、外注先からの「請求・振込の自動化」だ。たとえばAさん宛の支払い金額を確定すると、自動的にAさんにメールが送られる。間違いがないことを確認したAさんが、承認URLを押すと振り込み予約がされ、システムにもその情報が反映されるのだ。
そして、プロダクションならではの機能のひとつが、CMの出演者などとの契約期間終了を通知する機能だ。Googleカレンダーとも連携しており、契約期間を入力すると1カ月前と1週間前に自動で通知が届く。また、案件ごとに社員の人件費も含めた収支をリアルタイムで管理できるため、単月の経常利益が即座にわかり経営スピードも飛躍的に上がった。
「制作現場を因数分解して、一つひとつの業務を標準化するイメージです。映像制作業務はどうしても属人的になりがちで、アナログな部分も多い。だからこそ、『ベテランのAさんじゃないとできない』といった仕事を減らすことが、結果的に業務効率や制作物の質の向上に直結します。これまではOJTや座学で直接伝えるしかなかったノウハウがデータとして蓄積され、全社員が一定水準以上の業務をこなせるようになり、組織としての能力も高まっていく。何より単純作業を効率化できれば、よりクリエイティブなことに頭を使えるようになります。それが、社員の成長やアウトプットされる映像の質の向上に繋がっていきます」(和田さん)。
業務効率化の成果は明らかで、社員ひとりあたりの1日の残業時間は平均116分減少。制作現場の効率化によって、同じ価格でよりクオリティの高い映像をクライアントに提供できるようになった。今後は、別会社を立てて他の制作系企業にもMILLを提供し、映像制作事業に次ぐもうひとつの柱として育てていく計画だ。
制作会社の成長の鍵はデジタル化にあり
「労働時間短縮と制作単価低減の波の中で、制作物のクオリティを落とさずにいかにクライアントに貢献できるか。それはすべて『業務のデジタル化』にかかっていると言っても過言ではありません。撮影カメラや編集機などハードの技術革新が一巡した今、コストパフォーマンス・スピード・クオリティを高めるために、制作フローのデジタル化を徹底的に行う。それこそが今後制作会社が成長し続けるための鍵になるはずです。
そして、DXと働き方改革はセットであるべきだと思います。私たちなりの『デジタル化された映像制作手法』を模索し続け、エルロイの社員だけでなく、エルロイに関わるスタッフ全員が無駄な業務から解放され、映像制作のやりがいを感じて働ける。デジタル化によって逆にアナログの作業の楽しさを浮き彫りにする。今後も徹底的な業務の因数分解でそんな会社・業界にしていきたいですね」。
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