自分たちの“らしさ”よりも“在り方”
「日本パッケージデザイン大賞2021」銅賞を受賞したヤマハ「大人のピアニカ」のパッケージデザインやリコー発のスタートアップであるベクノスの全天球カメラ「IQUI」、長野県駒ヶ根市の「こまがねテラスプロジェクト」のVIなどを手がけるツバメヤ。グラフィックデザインを軸に、クライアントのニーズに合わせたクリエイティブを提供している。
CI/VIの開発からパッケージデザインまで、ブランドの規模の大小を問わないクリエイティブサービスの根幹には、「お客さまがブランドづくりを楽しめるような後押しをする」という創立時からのテーマがある。
「本来、ブランディングを進める主役は、クライアント。我々は、言うなれば触媒として存在するような感覚です。もちろん最終的には何らかの形に落とし込みますが、時間をかけて企業やブランドの根幹にある想いをとらえ、言語化していく。その過程で、クライアント自身が自分たちの魅力に気づくことに意味があると思います。その気づきが自信になり、ブランディングの原動力に変わります」と代表取締役/クリエイティブディレクター 小林建二郎さん。
その言葉を体現するのが、クリエイティブ制作前の思考を整理する段階からクライアントに寄り添い進めていくスタイルだ。
「我々が大切にしているのは、ツバメヤの“らしさ”ではなく、クライアントのブランドの個性と魅力を最大限に引き出す“在り方”です。同時にクライアントが独りよがりにならずに、送り手である企業とその受け手である生活者の中間的な視点を持てるように促す存在でもありたい。その想いが暗黙知として共有された結果として、ツバメヤの世界観があるのだと思います」(取締役/アートディレクター 島英紀さん)。
目指すのは、気持ちに作用するデザイン
ツバメヤが触媒となって生まれたデザインは、クライアントや現場にさまざまな変化をもたらしている。2017年にロゴデザインを担当した長野県駒ヶ根市の観光プロジェクト「こまがねテラス」は当初、地元の人々の間でもプロジェクトに対する温度差が少なからずあったという。しかし、中央アルプスと南アルプスの麓を意味する駒ヶ根の「根」と山並みを表現したロゴが完成すると店頭掲示の輪が広がり、商品ラベルやフラッグなどに活用され、景観に賑わいをつくり出している。今では多くの店舗に掲出され、シャッターが目に付いた商店街には新規開業も生まれ、活気づいてきている。
「ロゴを含めたプロジェクト活動自体が受け入れられて地元にコミュニケーションが生まれ、いい流れが生まれた幸せな例だと思います。使う側の気持ちに作用するものとしてデザインが機能したという、我々にとっても理想的な形ですね」(小林さん)。
また、千葉県柏市を拠点に古紙回収業として70年以上の歴史を持つ斎藤英次商店のブランディングでは「スマートなリサイクルカンパニー」というビジョンづくりからVI 開発まで携わった。ロゴデザインが決定し、古紙回収車や集積所が生まれ変わると、街中で「あの回収車、かっこいいね」という声が聞かれるように。
「『かっこいい』という単純な言葉かもしれませんが、それを聞いてモチベーションが上がったとしたらとても嬉しいことです」(島さん)
これからのデザインに求められるのは、根源的な動機を高めること
「デザインが必要とされる場所や理由はまだまだあると思います。世の中の『見た目』のデザインの平均値はとても高くなり、デザインの役割も変化しています。さまざまな価値観が変わらざるを得ない状況下でも、人は何かをつくったり売ったりしながら生きていく。その裏に普遍的にあるであろう『楽しいから』とか『嬉しいから』といった極めて根源的な動機を高めてあげることが、これからのデザインやデザイナーに求められることだと思います」(小林さん)。
そんな考えから、デザイナーの採用にあたっても、造形力以上に「相手がオープンな気持ちで話したくなるような佇まい」を重視している。「アウトプットを効率よく欲しいだけならば、それに特化したサービスはたくさんある。でも『つくる』過程に楽しさや嬉しさ、感動の共有が無いものばかりでは、デザインも人もどんどん乾いていく気がします」(島さん)。
「クライアントのブランディングの後押しをするという“在り方”は、これからも変わりません。ツバメが、軒先に巣をつくると、その店は繁盛するという言い伝えがあります。我々もクライアントにとって、そんな存在でありたいですね」(小林さん)。
ツバメヤ
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