2021年1月に公開されたオープンハウスの広告で初タッグを組んだ、俳優 松田翔太さんと、博報堂CMプラナー 吉兼啓介さん。
共に1985年、86年生まれの同年代で、幼い頃から広告に心惹かれていた2人は、「今、自分たちはそんな広告をつくれているのか?」と問いかける。演者でありながらクリエイターの目線でCMを見てきた松田さんのこだわり、吉兼さんが求める「わからない」CMについて、話が繰り広げられた。(今号は2人による連載「広告少年」の初回拡大版としてお届けします)。
本企画は、月刊『ブレーン』創刊60周年記念号(6月1日発売7月号)からダイジェストでお届けします。
日常の中の非日常が広告だった
吉兼:そもそも僕と松田翔太さんは、オープンハウスの広告で初めて一緒に仕事をしたんですよね。戸田恵梨香さん、東京03の角田晃広さんが夫婦を演じ、翔太さん演じる「座敷童子」が、戸建ての購入を促す内容で。翔太さんは撮影前から打ち合わせをして、衣装もスタイリストさんと一緒にいろんな案を出してくれたんです。撮影時も演じてもらっているというより、広告を一緒につくっている感覚でした。
松田:吉兼くんとはたまたま共通の友だちもいたんで話しやすかったですよね。
吉兼:そうですね。その翔太さんの姿勢に、僕は感動してしまって。翔太さんはCMのクリエイティビティを信じてくれている気がしました。
松田:広告には映画とは違う角度から刺激を受けてきました。僕の地元は映画館がすごく多い街で。初めてひとりで映画館に行ったのが小学校5年生の頃だったかな。やはり映画にはとても興味があって、ハリウッドのものからインディーズ、いろんな国のものまで自分が気になった映画を観に行っていました。「吉祥寺バウスシアター」(2014年5月閉館)にはよく行っていましたよ。
映画を観終わって、街を歩いて家に帰ると、徐々に映画の世界から現実に戻ってきた感覚になる。そんな気分も映画ならではの感覚で僕は好きでした。だけど、CMって自分でどれを見るか選べないし、番組表に載っているわけでもないから「偶然出会えた」感がすごかったんです。
映画とか自分で観に行ったものに関しては自分の趣味だけど、CMは日常の中でいきなり非日常を刺してくる。その頃、「ペプシマン」から始まり、「ドンタコス」とか「ポリンキー」「湖池屋スコーン」「ねるねるねるね」とか、挙げればきりがないくらい、セリフのリズムやジングルとかがどんどん頭に入ってきて、今でも覚えているくらいですよ。
吉兼:まさに未知との遭遇。宇宙に行ったり、急にド田舎に行ったり、タイムスリップしたり。
松田:そうそう。たった15秒で、急に感動しちゃったりね。しかも何回見ても面白い。だから「あのCM流れないかな」って考えながらテレビを見ている時もありました。面白かったCMはちゃんと覚えて、次の日学校で披露したり、話題になったりね。
吉兼:今はSNSもYouTubeもあって、自分の好きなもので身の回りをかためられるじゃないですか。若者は特に。快適かもしれないけど、たしかに僕らが子どものころは、そういう偶発的な出会いが結構ありましたよね。
CM の言葉選びが俳優業に活きている
松田:中学生あたりから、つくり手が気になってきて。スタッフリストを見るために、「ヴィレッジヴァンガード」とか「ブックオフ」に、本を探しに行っていました。気になったCMを見ていると同じ名前が何度も出てきて、「あ、僕はこの人の作品が好きなんだな」と。たまに映画の監督がCMを撮影したり、ファッション誌で撮影していたカメラマンがCMを撮っていたり。だんだん自分がそれまで興味があった分野とリンクするようになってきて、そこから「CMもひとつの芸術だな」って、中学生くらいの時に思ったのかな。
吉兼:早いですね(笑)。
松田:セリフにも惹かれていましたね。コピーやセリフが話し方のニュアンスひとつで面白くなったり、渋くなったり、カッコよくなったり。特に90年代後半から2000年代初頭は、言葉の話し方に面白みを感じたCMが多かった気がします。例えばサントリー「DAKARA」の小便小僧シリーズは、小便小僧たちのセリフが好きで。「何らかの形でね。」「ありえないとも言い切れんな。」「可及的速やかに対応すべきだよね。」とかを、無表情で言っていくのが好きでした。
吉兼:覚えています。「可及的速やかに」なんて、普段全然使わないのに(笑)。DAKARAのシリーズ、好きだったなあ。中学生の頃でしたね。
松田:言葉選びや話し方の面白さを感じたのはCMが原点だし、映画やドラマと同じように今の俳優人生にも影響を受けていると思います。
数年前にマンダム「ギャツビー」のCMで演じた「オサレ星人」。「グレーな話」篇で、エレベーターに乗っているオサレ星人が、商品の説明をしているシーンがあるんです。でもその途中でエレベーターが勝手に閉まってしまって「おい、まだしゃべってんだろ。」と怒る。で、もう1回商品の説明をしていたら、また扉が閉まってしまう。
その時の台本は「しゃべっているんですけど。」と、1回目と同じトーンだったと思うんですが、違うニュアンスにしたくて。それで、「まだしゃべっているんですよねぇ~。」と、ちょっと嫌味っぽい敬語にしてみました。見た人にとっては小さいことかもしれないですが、CMが好きだったからこそ、プロのスタッフの方たちと細部にまでこだわってものづくりができると嬉しいですよね。演者としてもやりがいがありました。
吉兼:あれを見た時、つくり手としてすごく嬉しかったのを覚えています。あ、このセリフすごくリアルだなって。
松田:今回のオープンハウスの「座敷童子」もそう。座敷童子だからって、子どもっぽくしすぎてもダメだし。その絶妙な微妙な感覚というのは今にすごく残っていますね。
(……この続きは6月1日発売の月刊『ブレーン』7月号に掲載しています)。
本記事のこの後のTOPIC
・やはり、TUGBOATか。
・「わかる」CMと「わからない」CM
・今の時代の「豊かな広告表現って?」など
月刊『ブレーン』7月号 主な内容・目次
【特集】
領域を超え、未来を創造する
青山デザイン会議2021
〇デザインと経営の未来
永井一史、山井梨沙、中台澄之、石川俊祐
〇アートディレクションの未来
佐藤可士和、清水彩香、高橋鴻介
〇世界のクリエイティブの未来
レイ・イナモト、清水幹太、武重浩介
〇社会課題と多様性に向き合う未来
宮本亞門、吉藤オリィ
〇広告の領域を超えるクリエイターの未来
白土謙二、国見昭仁
〇クリエイティブディレクションの未来
国分太一、箭内道彦
〇テレビCMの未来 ※新連載の初回特別編として掲載
松田翔太、吉兼啓介
〇青山デザイン会議クロニクル 1999-2021
【特集】
未来をつくるクリエイティブチーム
【レポート】
第8回「BOVA」グランプリほか各賞発表