1950年代に活躍した、4人の「広告の哲学者」たち
100年以上にわたる米広告史を概説したジュリアン・シヴァルカ著の『Soap, Sex, and Cigarettes(1998年刊 未邦訳)』を読んでいると、1950年代のアメリカ広告史に颯爽と登場した「広告の哲学者」として4人のレジェンドたちが紹介されていました。その4人とは、ロッサー・リーブス、レオ・バーネット、デヴィッド・オグルヴィ、そしてビル・バーンバックです。
この4人は、その後の広告業界に大きく影響を与えた同時代を生きた伝説的なアドマンであることは間違いないのですが、それは必ずしもこの4人の広告に対するアプローチが同じだったからではありません。むしろ逆で、ある意味でまったく違っていたことによって、当時の広告業界に新しい視点をもたらし、結果的に広告ビジネスを発展させたことが評価をされているのです。シヴァルカが「哲学者」という言葉を使ったのはそのような意味においてであり、そのもとになる思想自体の独創性が、現代においても息づいています。
彼らは、わずか数十年という時代を同じくする「哲学者」ですが、ヨーロッパには18世紀から19世紀の200年の間に、独創的な哲学者、思想家がいました。ここで取り上げたいのはヘーゲル、キルケゴール、マルクス、そしてニーチェです。彼らの思想は、それぞれに独特で、後世に大きく影響を与えました。
同じ「哲学」、という言葉が使われているだけで、当然広告業界と西欧哲学では、まったく文脈も主題も違う話だと思われるかもしれません。しかし私は、「広告界の哲学者」と言われた4人とヨーロッパの哲学者たちの間には共通点があるように思います。それは哲学者も、アドマンも、それまで常識だと思われていたアプローチを全く違う形で捉えたイノベーター(革新者)であったという共通点です。彼らの独創性が後世に影響を与えるのは、その思想そのものというよりは、彼らの生涯を通してそれを問うていたこと自体にあります。その意味で、ここでは、まったくの独断と偏見で、これらの哲学者が取り組んだ問題を比喩的に用いて、広告界の「哲学」を解説していきたいと思います。