「ダイバーシティあふれる小売の未来」を、マレーシアと日本の事例から考えよう

『ボディ・ポジティブ』に見る、ダイバーシティの概念の拡張

また多様性の概念は、決してマイノリティ=少数派の他人事ではありません。多様性のジャンル自体も拡張しつつあります。たとえばファッションありのままの体型を大事にしようとする「ボディ・ポジティブ(#BoPo)」というムーブメントが近年注目を集めています。

これまでの広告やファッション雑誌が「痩せた人がキレイである」と描きがちでした。そこで、ありのままの体型を愛そうという運動が、欧米のファッション業界を中心に広がりつつあります。

こうしたファッションのダイバーシティにおける象徴的な事例が、大きいサイズ専門店フォーエルの取り組みです。フォーエルは、もともと「体の大きい人を笑顔にする」という理念のもとに生まれました。その企業理念のもとにこの春、新しいブランドステートメント(*1)が策定され世の中に発表されました。

「『サイズがない』をなくし、ファッションの常識からはみ出せ」というボディコピーには、単に大きなサイズの服を売るのではなく、その服を通じて「ファッションのダイバーシティ」を推し進めるというその企業の意思が込められています。

フォーエルのブランドステートメント

このステートメントには、単に大きいサイズの服を売るということではなく、大きいサイズのファッションを提供していくことで、世の中に「ファッションのダイバーシティを広げていく」というブランドの姿勢が反映されています。

ところで皆さんは、レンガ職人の寓話を聞いたことがありますか。旅人が「何をしているのですか?」と聞くと、1人目は「ただレンガを積んでるだけ」と言い、2人目は「レンガで壁を作っている」と言い、3人目は「多くの人々が集うための教会の大聖堂をつくっている」と誇らしげに答えます。この寓話が教えてくれるのは、同じ行為でも高い志を込めてやりがいを持てるということです。

この話は、小売のお店で働く販売員やメーカーでものづくりする人にとっても応用できる考え方だと思います。小売というビジネスを「単に物を売っているだけ」と捉えるのか。その商品と出会うべき誰かの人生を潤わせ、出かけたくなる社会を実現するためだと捉えるか、で仕事への意思は変わります。

このように「ダイバーシティ(多様性)」への理解・配慮を推し進めていくと、ビジネス領域も広がり、その小売企業やメーカーのファンを新たに増やす可能性を秘めているのです。

次ページ 「多様性あふれる小売を実現するために、「サマサマ」の意識を持とう。」へ続く

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堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)
堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)

新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナー、クリエーティブディレクターとして、様々な企業のプロモーション、ブランディング、新規事業開発などを担当。主な仕事としては、日本初の人工知能コピーライタープロジェクト「AICO」の新規事業立ち上げをはじめ、国語の教科書に掲載された「さびしくなったら、おヘソをみよう」(日本新聞協会グランプリ受賞)、『One Show 展』(カンヌゴールド)、『JRA進撃の有馬記念』、IBM Watsonハッカソン『日本IBM賞』、宣伝会議第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。マレーシアのELM Graduate SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は「消費、そして地域を元気にする」をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズにて、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。クリエイティブコーチとしても活動。またオランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで海外リテイルのトレンドについても執筆や講演など精力的に活動中。主な連載『VUCA時代の小売と消費』(ダイヤモンド社)、『世界の小売から』(宣伝会議 AdverTimes)等

堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)

新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナー、クリエーティブディレクターとして、様々な企業のプロモーション、ブランディング、新規事業開発などを担当。主な仕事としては、日本初の人工知能コピーライタープロジェクト「AICO」の新規事業立ち上げをはじめ、国語の教科書に掲載された「さびしくなったら、おヘソをみよう」(日本新聞協会グランプリ受賞)、『One Show 展』(カンヌゴールド)、『JRA進撃の有馬記念』、IBM Watsonハッカソン『日本IBM賞』、宣伝会議第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。マレーシアのELM Graduate SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は「消費、そして地域を元気にする」をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズにて、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。クリエイティブコーチとしても活動。またオランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで海外リテイルのトレンドについても執筆や講演など精力的に活動中。主な連載『VUCA時代の小売と消費』(ダイヤモンド社)、『世界の小売から』(宣伝会議 AdverTimes)等

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