嘘や“つくりもの”を一切排除、今泉作品の独特なリアリティはここから生まれる
澤本:今度おつくりになった映画も、「なんだこのリアリティは!」っていう!
権八:この映画は、すごいですね!
中村:そうなんです。ちょっと新作映画のことを早く聞きたいんで、どんどん進行しますが、毎回ゲストの方にお願いしている20秒自己紹介を、ぜひ今泉監督にもお願い出来ればと思います。
今泉:はい。
中村:この『すぐおわ』は、広告の番組ということで、ご自身の自己紹介をラジオCMの秒数20秒に合わせてやってくださいというコーナーです。むちゃぶりです……。
今泉:はい!
中村:準備はいいでしょうか?
今泉:大丈夫です。
中村:はい、いきます。では、どうぞ!
今泉:映画監督の今泉力哉です。はじめまして。『サッドティー』という映画や、一番みんなに知られている映画だと『愛がなんだ』という映画があったりします。2021年も『あの頃。』という映画が公開されていて、これから『街の上で』が公開されます。『街の上で』は4月9日からです。よろしくお願いします。
中村:ありがとうございます。ちゃんと『街の上で』って言ってくれるのかって思って気になっていましたけど。
今泉:ぎりぎり入った。ぎりぎり(笑)。
中村:新作『街の上で』ですが、どうでした、澤本さん?
澤本:僕、(出演している)古川琴音さんから「観てください」って言われていたんで、ちょっと早い段階で観たんですよね。それで、あまりにすごかったから、権八と洋基くんに「観ろ!観ろ!」って言っていました。
権八:そうですよ。ようやく僕も観れまして。
澤本:なんですかね、あのリアリティは。どうやってつくるんですかね。
今泉:たぶん嘘に対する許容がめちゃくちゃ低いというところだと思います。だから、そういう『つくりもの』っぽくなることを排除していくことをひたすらやって……。あとは、脚本を書いているときのセリフも、『つくりもの』のような、映画のなかでしか言わない言葉はなるべく使わないようにしています。
澤本:はいはい。
今泉:でも、演出でいうと『お任せする』というのが、たぶん一番の方法だと思っていて。だから、やってほしい芝居というのがこっちにあるわけじゃないんです。やってほしくないことや、嘘っぽくなることをどんどん引き算で抜いていくんで、基本的に「こうしてほしい」と先に言うことはまずないです。
権八:へえ~。
今泉:みんな普通にできる方たちだし、アイデアを持っているんで。実は任せた方が魅力的になる。「こうしてほしい」「こうしてください」って言っちゃうと、できることを閉ざしている気がして。結構『お任せ』演出です。
澤本:なるほど。
権八:すごいな。
中村:なるほど。あえてお任せするから、あの雰囲気なんですね。あの雰囲気ってどんな雰囲気なのかを、これから切り込んでいきたいんですけど。まずよかったら監督の口からこの新作映画、『街の上で』の大まかなストーリーを紹介いただけますか。
今泉:下北沢を舞台に、ほぼ全編撮った映画です。ちょっと暇そうな古着屋で働いている、荒川青という主人公を若葉竜也さんが演じているんですが、彼が彼女に浮気された上に振られるところからはじまります。古本屋で働いている女の子や、自主映画のスタッフの女性など色んな女性に出会っていくんですけど、ベースとしては振られた彼女を引きずっている。特に何の他愛もない数カ月間を描いています。
古本屋に行ったり、その辺のカフェでご飯を食べたり、ライブハウスでライブを観たり……。夜に行きつけの飲み屋に行ったりして、本当に下北しか出てこないような、その範疇で生活しているっていう、青の日常劇になっています。
澤本:今聞くと、とても普通の観察劇みたいなんだけど、全然違うよね。
権八:そうですね。ショックを受けるくらい面白いです。
澤本:本当に。
権八:ちょっとショックでしたね。
澤本:なんだろうね、あの面白さは。
権八:でも、さっき監督が言ったことにヒントがあってね。ある種の潔癖というか。Twitterの投稿も読んでいるとすごい面白いんだよね。
澤本:めちゃくちゃ面白いんですよね。
権八:めちゃくちゃ面白い。Twitterも。
今泉:闇ツイートしかないですね(笑)。
権八:そうそう(笑)。でも、これは許せないみたいな瞬間を全部バーッと排除していくから、すごい純度が高まっているんでしょうね。きっと。
今泉:そうかもしれないですね。でも、現場では堂々といる感じではなくて。自分もずっと迷っています。『愛がなんだ』(2018年)という映画を撮ったとき、主演の岸井ゆきのさんが「撮影の初日か2日目で、監督はたぶん正解を持っていないということに気づいて、色々聞くのを諦めた」と言っていて。「一緒に迷子になるって決めた」と。「監督が正解を知らないことってあるんだって驚いた」と言っていたんですけど(笑)。
権八:ああ、ありますよね。
今泉:聞かれたときに、「ちょっと分かんないですね」みたいなことを言っちゃっていましたね。「一回やってみてもらっていいですか?」とか。最初の頃は岸井さんも、「監督って絶対だから応えないといけない」って思っていたらしんですけど、一回やってみてちょっと違ったら、テイク2、テイク3ってやって、OKが出ればよくて。監督はその一番いいときに、もちろんOK出した方がいいんですけど、たまにOKだけど「もっとイケるかも」と思って、もう一回やってもらったりもしていました。それで何回かやったら、「あっ、すみません3番目のでいきます」ってなったり……。
権八:はいはい。
今泉:それを正直に言うようになっちゃってました。別に、試すことがいけなかったり、一回で正解を出さなくても、結局世に出るものが一番面白くなればいいと思っているので。結局、役者やスタッフみんな、それぞれのスペシャリストなのでその辺甘えたり、みんなに頼ってつくった方が面白くなるって徐々に気づきました。自分でやった方が早いって思っちゃうときとかもあるんですけど、やっぱり任せるようにしなきゃなと思っています。そうすると、より豊かになるのかなというのは思ったりします。
権八:豊かですよね。本当に。