新進気鋭の映画監督による独自の撮影術は“お任せする”こと!?(ゲスト:今泉力哉)【前編】

元カノの理解できない言葉から生まれた!?共感を呼ぶセリフ回し

澤本:結構長いシーンのときこそ、妙にリアルじゃないですか。あれって、どこまで自分で書かれているんですか。

今泉:『街の上で』に、1カ所17分くらい、10分と7分に編集で分かれているシーンがあって。その男女2人がずっと夜に喋っているシーンは、アドリブはほぼなくて全部脚本が入っています。

中村:えっ、そうなんですか? すごいな。

今泉:でも撮影していて、脚本より明らかに面白くなっていました。それが何かというと、やっぱりセリフじゃなくて、間で“笑い”があったり、ちょっと照れたりしているから。あれは一発OKなんですけど、あそこまで細かくは書いていません。

一同:へ~。

今泉:慣れてくるし、もう一回撮っても同じものは撮れないですね。テストや段取りはやっているんですけど、本番1回で、あれが撮れたんで終わり。でも、自分も改めて試写で観たり、先行上映で観たりしましたけど、あのシーンは自分でも恥ずかしくなりますね。

中村:男女の、あのシーンね。

権八:振り返ると、やっぱりあそこはすごいんですよね。あの向き合って話すの。

今泉:カメラの高さも、俯瞰とか上げたり低くしたりも、ほぼしていないなと思って。この間思ったんですけど、ほとんど自分たちの生活の高さというか、目線の高さ。カメラマンさんは自然にやっているんですけど、ピン送りもちょっと気になっちゃうくらいで。カメラをあんまり意識させたくないっていう。だから編集もカット割りも少ないというのはあります。

権八:監督自身も観ていて恥ずかしくなるっておっしゃったけど、なんか目も当てられないくらい面白いというか、耐えられないくらい。なんかむずむずして、観てられない面白さがありますよね。

澤本:自分が当事者になったみたいな感じになるもんね。

権八:そうそうそうそう!

澤本:当事者としては、年齢はものすごい離れているんだけど、自分がもぞもぞしたりとかして。

権八:妄想しちゃうんですよね。

中村:ありました? 大学生くらいの世代のとき。

権八:もちろんもちろん。だからすごい懐かしくて。もう戻れないなっていう、さみしさもありませんでした?

中村:もしかしたら、このまんまいい感じになっちゃうんじゃないかな、みたいなのが、ず~っと続いて。

権八:ああいう感情って、僕はもう書けないんじゃないかなって思って。

今泉:書ける書けないでいうと、自分ももう結婚して子供も3人いて。20代後半の男女のやり取りを書いていると、冷静に「このセリフのやり取りを書いている40歳のオッサン、気持ち悪い」って思いますね。「ちょっとこれは大丈夫かな」って(笑)。

一同:ははは!

今泉:全部じゃないんですけど、やっぱり自分の経験ややりとりで書いているところもあるんで。

権八:そうですよね。

今泉:リアリティというか、「女性の気持ちがなんで分かるんですか?」って聞かれるんですけど、ほぼ分かってなくて。僕が女性から言われて、理解できていない言葉をそのまま使ったりしているんで。

一同:あ~。

今泉:だから、「その言葉、俺もいまだに分かっていません」みたいな。

一同:ははは!

今泉:でも、それを女性が観て分かるということは、「昔付き合っていた彼女とこの女性は通じるんだな」と。俺は全然分かんないけど、そう思うことはあります。

権八:まさに女性が魅力的で。主人公の青くんをめぐる女性たちが何人か出てくるんだけど、ズバリ監督が一番思い入れあるのは、イハちゃんじゃないですか?

今泉:最終的にそうなりましたね。彼女は一番謎ですもんね。でも、雪を演じていた穂志もえかさんが脚本を読んでいたときに、「これだけ魅力的なキャラクターが出てくる中で、ずっと私を引きずっていなきゃいけないのがプレッシャーになる」って言っていて。

一同:あ~。

今泉:「本当にいい女じゃなきゃいけないのかな」って思ったらしくて。

権八:なるほど。

今泉:ただ、俺の映画を観てくれていて、「今泉さんの映画の魅力ってなんだろうって思ったら、基本めんどくさい人しか出てこないから、そのめんどくささ、ちょっと分かりにくい女の部分を大事にしたら、魅力的な人になるかもって解釈してやった」と言っていました。

一同:うんうん。

今泉:それはすごい正しいし、ありがたいなと思ってます。

次ページ 「皮肉のようなセリフから生まれる笑いをつくりたい」へ続く

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