皮肉のようなセリフから生まれる笑いをつくりたい
澤本:めんどくさい人が集まった、自転車のシーンあるじゃないですか。
権八:あそこはすごかったですね!
澤本:あれ、すばらしいよね。あんなに全員がめんどくさい人たちを、みごとに処理しているっていうか。
今泉:でも実はあれは、なかなかうまくいかなくて。
澤本:そうなんですか?
今泉:たぶん、俳優の皆さんも、脚本を読んで面白いシーンだと思って現場に集まって、実際やってみたら、本当に“ちょっと”のかみ合わせでうまくいかなくて……。「これ、うまくいってないぞ……」という空気が流れちゃって、時間がかかりましたね。
権八:山場のシーンですよね。
中村:自転車のシーンの尺も長いですよね。
今泉:まあまあありますね。脚本はマンガ家の大橋裕之さんと一緒につくっていったんですけど、2人で共同だと書きにくかったんで、基本的には自分が書いて、そこからアイデアをもらったりしていました。その山場のシーンは、笑いに行き過ぎているかもって思って、一回全部切り落とそうとしていたんです。
けど、笑いやセンスに関して絶大な信頼を置いている大橋さんが、「あれを捨てるのはもったいない」って言ってくれて。「大橋さんが言っているなら」と残しました。自転車が登場するのも、大橋さんが「自転車で来るとかどう?」と言ってくれたからなんです。自分の感覚でいうと自転車って撮影がやっかいなので勝手に避けちゃってたんですけど、大橋さんが映画の現場の大変さなどを何も気にせずに、何が面白いかで言ってくれていたのは大きかったですね。
澤本:自転車で来たから、去っていく坂道でちょっとつまずいたりしてね。
権八:乗ろうとしても乗れないとかね。
澤本:あれ、すごかったね!
今泉:あれは脚本上にあるわけじゃなくて、完全に現場で起きたミスなんです。
権八:あっ、そうなんだ!
今泉:「乗れねえじゃん」ってなって(笑)。
一同:ははは!
今泉:「どうする?」ってなったけど、「面白いからいいんじゃない」みたいな感じで(笑)。
権八:映画なのかコントなのかみたいな……。コント的な瞬間も結構ありますよね。
今泉:そうですね。笑いに関しては、「ここ、面白いですよ」ってやるんではなく、中の人が本当に一生懸命やっているのに空回っているみたいな……。「ドラマ=葛藤」っていう、脚本の授業で習う言葉があるんですけど、あるとき、山下敦弘さんが授業で喋っているときのノートに「ドラマ=気まずさ」って書いてあって。山下さんは「俺、そんなこと書いてないよ」って言うんですけど、たぶんこれが僕がやりたい笑いで。
山下さんの映画や沖田(修一)さんの映画を観ていると分かるんですけど、中の人は誰も面白いって思っていないんです。本当にただ一生懸命生きているのに空回って、気をつかって余計なことを言っちゃうみたいな。そういう笑いをやりたいっていうのがあって、『街の上で』でも「ここ面白いでしょ」みたいな人はほぼいないんです。
権八:そうですよね。
今泉:全員真面目に話しているけど、主人公が巻き込まれて困っている状況があちこちに起こる。最初は、アキ・カウリスマキっていう映画監督みたいに、寡黙で何かに巻き込まれる主人公を撮ろうと思っていたのがベースになります。それが『街の上で』の笑いだったり、シーンかなと思っています。
僕も奥さんの料理がまずかったとき、「まずい」「美味しくない」って言えばよかったんですけど、気をつかって回り回って「どうやったらこういう味になるの?」って言っちゃったことがあったんですよね。
一同:ははは!
今泉:一番の嫌味みたいな(笑)。そういうセリフを書けたらなっていうのがすごいあって。
権八:すごいですね。主人公の若葉くんのセリフは割とそうなっていますよね。
今泉:そうなんですよね。
<後編につづく>