カップヌードルのリブランディングで、欧州の列強とアジアの低価格商品に勝つ
—社会人になる以前から、海外在住の経験があったのですか?
いえ。日本生まれの日本育ちです。ただ高校2年生のときに1年間、アメリカのアイオワ州に交換留学したことがありました。といっても、それだけで英語が上手になったわけではありません。前職の博報堂で外資のクライアントとコミュニケーションをとる必要があり、英語に触れる機会が徐々に増え、アジア駐在中に本格的に英語に触れることになりました。シンガポールにいる間にアメリカ系の大学院にも通い、そこで2年間、英語漬けの生活を送ることに。これらの経験の結果、英語で仕事を進められるようになりましたが、それでもまだ映画を見ても分からないことはありますね。
—現在の仕事の内容について教えてください。
欧州日清食品では「カップヌードル」と「出前一丁」をメインに扱っています。私はマーケティングダイレクターとして、ブランドの戦略作り、商品開発、コミュニケーション、そしてマーケティングプラットフォーム整備の4つを主に担当しています。
赴任して最初に手がけた仕事は、カップヌードルのリブランディングです。もともとカップヌードルは、ローカライゼーション戦略をとっていました。パッケージはウェスタン調のデザインで、フレーバーもマッシュルームやトマト、チキンスープといった現地の嗜好にあわせたものでした。
一方、マーケットの状況はNestleやUnileverなど欧州の競合グローバル企業が、インスタントパスタに加えてアジアタイプの麺も発売していました。5年前くらいから徐々に欧州でアジア食のブームが起きていたのです。特にイギリスやフランスでは早くからブームが起こっていて、ドイツでも私が赴任した時にはすでにアジア食のトレンドが来ていました。レストランだけでなく加工食品にもその波が押し寄せていて、アジアヌードルの市場が伸びていました。
そうした中、欧州の競合企業は、パッケージにドラゴンのデザインをあしらったアジア「風」で展開していました。さらにアジアから輸入される低単価商品が、もう一つの競合として存在。タイ、中国、韓国、ベトナムなどのアジアから輸入されたインポート品が、コスト競争力を武器に、急速に市場へと浸透していたのです。
これらの強力なライバルの板挟みになりながら、我々は日本発祥の企業として、ハンガリーで生産して現地で販売するという地産地消のモデルを展開しています。こうした中で、我々のカップヌードルは世界初のオリジナルであり、自分たちこそが本物のアジアである、というポジショニングをとることに決めました。コンセプトは「This is ASIAN NOODLES」。品質には絶対的な自信があり、世界での実績もあるカップヌードルこそが、オーセンティックアジアであると謳うことにしたのです。カップヌードルのブランドマネジメントは、コアバリューを守りながらも現地の嗜好やトレンドに合わせ、ブランドバリューを最大化させる形をとっています。
リポジショニングにあたっては、パッケージもレシピも変更しました。特にレシピは、日本人やアジア人が食べても本物の日本の味、アジアの味だと思えるものにしました。ブランドコミュニケーションでは「Asian Blast」というタグラインを展開。口に入れた瞬間、本物のアジアのフレーバーが沸き起こるというメッセージを届けることにしたのです。
このキャンペーンは2020年1月にローンチしたのですが、すぐにコロナパンデミックに見舞われることになりました。食品業界にとっては実際に食べてもらうことが一番のアピールになりますので、当初は店頭での試食サンプリングを予定していましたが、それができなくなり別のサンプリング方法を模索しました。
1つ目はSNSを通じてのサンプリングです。例えば、「あなたにとっての、Perfectionistは?」など、投稿動画に関連するトピックへの回答をSNSにアップしてくれた消費者の中から抽選で、特別な試食サンプリングセットを送付する取り組みです。
2つ目は、欧州にはサブスクリプションで様々な企業の新商品が毎月お得な値段で届くサービスがありますので、そちらを活用しました。こうした切り替えを1カ月という短期間で進め、まずはドイツで展開しました。コロナ禍でも一定の反響があったため、今年はイギリス、フランス、デンマークでも同様の取り組みを実施しています。