長くて深いロックダウンで生まれる兆しにチャンスを見出す
—コロナ禍の欧州の状況はどうでしょう?
欧州におけるコロナパンデミックは、2020年の3月くらいに北イタリアから始まり、そこから欧州全体へと飛び火していきました。ドイツはこの第1波をうまく乗り切ったといわれていましたが、その時期には日本では想像できないような厳しいロックダウンが長く続きました。
学校も含めスーパーマーケット以外はすべて閉まり、許されたのは一人で外に出て歩くこと(散歩)とスーパーマーケットへの買い物だけ。外出時は1.5メートル以上の間隔を空けたり、マスクをつけたりすることを求められました。マスクは仕様まで指定されていたほどです。守らないと罰金もありました。生活するのに最低限必要なことだけ許されて、あとはロックダウンという状況が3カ月も続きました。
6月くらいから徐々に規制が緩和されはじめて、昨年の7月と8月はなんとかバケーションを楽しめるようになりました。サマーバケーションは欧州人にとってとても重要な存在ですが、9月くらいからまた感染が拡大して、11月に再びロックダウン。これが第2波です。クリスマス前には収束するだろうと皆が期待していましたが、「クリスマスには家にも帰らず、ハグもしないでください」とアナウンスされ、結果的にその時から今まで半年以上もロックダウンが続いています。これはドイツだけでなく、他のマーケットも似たような状況です。
第1波の当時、ドイツでは「ハムスター買いをやめよう」とメディアで盛んに叫ばれていました。ハムスターのように、必要以上にため込む(ほっぺたにつめこむ)ような購買行動は止めましょうという意味です。買い占めが行われていた中、スーパーマーケットに行って売り場の様子を見ていると、最初はティッシュがなくなり、次にパスタがなくなり、合わせてパスタに関連する缶詰がなくなり、その後に小麦粉やベーキングパウダーがなくなっていきました。そして、しばらくしてからインスタント麺の棚が空になっていきました。このことからも、欧州におけるインスタント麺の位置づけを感じ取ることができました。
—コロナ禍を受けて、欧州の生活者に変化は感じますか?
長いロックダウンが続いているヨーロッパでは、巣篭もり生活によって自宅で調理する人が増えたと感じています。もともとドイツでは、夕食には火を使わないという長い歴史があります。カルトエッセン(冷たいご飯)という言葉があるのですが、夜はコールドフードで、例えばチーズとパン、ハムといったものを食べる習慣があります。その代わりに昼食に温かいものを食べます。お昼にしっかりと食事して、夜はあまり食べないのです。そういう食文化ですので、日本に比べると家で調理する習慣がありません。それが長い巣篭もり生活のせいで、例えばオーブンを使ってケーキを焼く人が増えました。ベーキングパウダーが売り切れたのには、こうした背景があります。ケーキだけでなく、お家でちょっとしたお菓子や食事をつくることに人々が目覚め始めたと感じます。その流れにのって、アッセンブルクッキングが始まっています。日本では以前からありますが、例えばカット野菜と合わせ調味料を使って、作るのはとても簡単だけどまるでハンドメイドの料理のように見えるものです。こうした考えが徐々に広がっていることは、我々にとって良い機会になると考えています。
日清食品グループは「EARTH FOOD CREATOR (食文化創造集団)」をビジョンとして掲げています。その考えを欧州に当てはめた時に、例えば日本で袋麺を土曜の昼間に家族みんなで食べるようなラーメン文化を欧州に育みたい、と考えています。巣篭もり生活で調理をする頻度が増える中、毎日マッシュポテトやマカロニを作るのではなく、アジアから来たインスタント麺がメニューに加わることで、家庭の食卓にバラエティが生まれて、食事の時間が鮮やかになり、楽しくてうれしいものになると思っています。カップヌードルのリブランディングがひと段落したので、袋麺の出前一丁でこの機会を生かしたいと思います。
玉井博久
広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。