エドセルの教訓 大々的な広告キャンペーンがむしろ仇に
前述の通り、フォード社は事前に消費者調査を行っていました。ニューヨーク、シカゴ、ミシガンで、候補車名を聞いて連想するもの、また消費者自身が考えつく車名調査を実施し、フォード社員に対しても車名コンテストを行いました。さらに、著名な詩人へのヒアリングも行っていました。これらの活動の結果、車名の候補は1万件に上りました。
それがあだとなったのです。というのも、1万件の車名候補を前に、フォード社役員会で、会長はうんざりした表情でこう言ったそうです。
「いくらなんでもこれじゃ多すぎる。いっそのことエドセルにしたらどうだろう」。
すると、創業者ヘンリー・フォードの孫、ヘンリー・フォード二世も、この意見に賛成。彼の父親、すなわちヘンリー・フォードの唯一の息子の名前がエドセルだったのです。
トップの一言で、コストをかけたリサーチが無に帰してしまう——失敗するプロジェクトにありがちなシーンのように思えるのですが、みなさんの周りではどうでしょうか?
会長の意見に全員が賛成したわけではありません。広報担当役員は、「エドセル」が好感度の低いネーミングであることを知っていました。実は、消費者調査の初期段階で「エドセル」は候補に含まれていて、連想する言葉として、「イタチ」や「プレッツェル」など、ダイナミックな自動車とはかけ離れたものばかりが挙げられていたからです。
「これで新車の販売台数は20万台減ってしまった」と思った広報担当役員は、発売日の前後に大々的にマス・メディアに取り上げてもらおうと尽力します。が、その姿勢は、結果的に、大袈裟な売り込み、自信過剰な広告表現となってあらわれました。
大袈裟な売り込みは、消費者にとんでもない期待を抱かせてしまう恐れがあります。前フリでハードルを上げ過ぎるとオチで笑いがとれないように、高まった消費者の期待に実際の商品が見合わないと、消費者はがっかりしますから、よい評判も立ちにくくなります。