成功したコンプラ・チェック体制のヒントをお伝えします!
さて、では本題です。私のテレビリサーチャーとしての経験のうち、成功した!と思えるコンプライアンス・チェックの体制をお伝えします。
数年前のこと。その番組は放送の数カ月前からプロモーションを展開したこともあり、視聴者の期待が高いことが予想されました。期待を裏切らないよう、制作スタッフが尽力するのはもちろんですが、その過程で、徹底的なコンプライアンス・チェックを行う体制がつくられることになりました。期待がある分、視聴者をがっかりさせないよう努力することと同じくらい、視聴者からお?りを受けることのないようにする努力も必要と考えられたからです。
通常のチェック体制に加えて、リサーチャーによるチェック・チームがつくられました。このチームに求められた役割は、8~9割方できあがったVTRを見て、誤りや不適切な表現がないか、徹底的にチェックすること。そして、そのチェック内容をレポートとして報告することです。チームの一員となった私が、その立場から考察するに、このチェック体制が成功したポイントは2つあります。
ひとつは、チェック・レポートが適切にシェアされたこと。
事業体やプロジェクトによって規模は異なるでしょうが、コンテンツ制作の場合、トップの責任者がいて、各セクションの責任者がいて、各セクションにいるスタッフによって制作される、という組織体系になるかと思います。また、社内にコンプライアンスの専門部署もあることでしょう。
一般には、各セクションの責任者とスタッフ間でチェックし、トップの責任者がチェックし、コンプライアンス担当がチェックする——このチェックの体系にチェック・チームが加わったのですが、その位置はトップと各セクションの責任者の間、チェック・レポートはその両者にシェアされました。
チェック・レポートを介して、責任者間で問題点が共有されることによって、些細な事柄でも、しっかりとコンテンツに反映することができたのです。その上、コンプライアンス担当のチェックも入りますから、コンテンツとしてはダブル・チェックできたわけです。
もうひとつは、チェック・チームのリーダーがリポートをとりまとめることによって、意見を出しやすい環境がつくられたこと。
私が担当したのは、ほぼできあがったVTRを徹底的にチェックして、修正・変更が必要と考えられる箇所を指摘・報告する、という作業です。その際、修正案や変更が必要と考えられる理由・根拠を明記することがルールとされました。そして、「些細なことでも気になったら指摘するように」との指示だったので、そうしようと思うのですが、これが案外難しいのです。誤記や事実誤認と推察される表現は指摘しやすいのですが、そうではない「微妙な表現」は指摘するのに躊躇しがちになってしまうのです。取材で苦労したことなどを知っていると、どうしても判断が甘くなったり、重箱の隅をつつくような指摘をすることに心苦しくなったり……。そうした迷いを払って指示に従うことができたのは、私の報告先がチェック・チームのリーダーだったからです。
ひとつのVTRに対して、私と同じ作業をするリサーチャーがもうひとりいて、リーダーは自身のチェックと合わせて都合3人分のチェックをとりまとめてレポートを作成しました。これをチェック・レポートとして提出する際、リーダーは私たちにもフィードバックしてくれたので、最終的にどのようなレポートになったのかを知ることができ、そこで私が躊躇した指摘については補足や修正、場合によっては削除してくれていることを知り、迷いや余計な遠慮をしりぞけることができたのです。
また、レポートを見て、「ひとりでは無理だ。絶対見落とす」と思いました。私がスルーしたところに、もうひとりのリサーチャーがチェックを入れていて、「なるほど、そう見ると、この問題が生じるのか」と気づかされることが多々ありました。
チェックを徹底する場合には、複数人であたる必要があると実感しました。ですが、多ければいいというわけでもないとも思います。人数が増えると、とりまとめるリーダーの負担が大きくなります。とりまとめられなければ、フォード社の会長がうんざりしたように、有益な情報でもシェアしにくいものです。3~4人が機能的なのではないかと思います。
マス(不特定多数)に向けてメッセージを発するというのは、なかなかどうして難しいものです。煽りすぎてもいけないし、とはいえ世間の関心を集めないといけないし……。あるいは堅実な活動報告も、思いもよらない角度から非難されることがあったり……。受け手(読者・視聴者)が増えれば、その分いろいろな反応が——沈黙(無反応)という反応も含めて——あります。みなさんの情報発信も、単に広報・告知にとどまらず、マーケットの風や温度を知るツールにもなっているはずです。
マーケットの現実に目を向けなかったため、エドセルは大失敗に終わりましたが、フォード社は、その大失敗から教訓を得て、1964年にはムスタングの大成功を導いています。
みなさんの「ファクト」と「コンプライアンス」を充実させた発信が、大きな成功の導きとなることを祈念いたします。