人から役柄をつくる、今泉作品の魅力の裏側(ゲスト:今泉力哉)【後編】

今泉作品、個性的な登場人物を演じる俳優陣

権八:喫茶店のマスター。あの人もすごい味のあるやり取りですよね。

今泉:あの喫茶店のマスターは、芹澤興人さんという俳優さんに演じていただきました。あの方は、自主映画の頃から一緒にやっていて。本当に彼がいなかったら、僕は今監督やれていないくらい。一緒につくっていた映画がはじめて賞を獲ったり……。たぶん15本~20本くらいご一緒している方で、『あの頃。』(2021年)という2月に公開になった映画でもそうなんですけど、僕の映画を色々見てくれているファンの方からこの間、Twitterで「たぶん今泉さん、大事なセリフは全部芹澤さんに言わせている」って言われました(笑)。

一同:ははは!

今泉:結構バレていました(笑)。芹澤さんって決めゼリフみたいなことも、ナチュラルにやってくれるんですよ。「これ、いいセリフでしょ」ってやらないんで、無意識のうちに困ったセリフを芹澤さんに託している部分があったかもなって。

澤本:マスターみたいな人って、街にいるもんね。ああいう人いるし、ああいう喋り方するっていう感じ。だから、サラって喋っているけど、いいこと言ってる風に聞こえる。

今泉:ちょっと切ない部分とか。一歩間違えれば、すごく感動させそうなことを言わせたりするんで。古本屋の店主の話とか……。あれは芹澤さんと若葉さんの芝居の呼吸というか、芝居がよかったんで、本当は表情が見えるくらい寄って撮ったりする予定だったんですけど、引きで撮りました。それで「もう大丈夫ですかね、埋まりましたね」とか言ったら、現場のスケジュールが狂って。撮影時間がない現場だったんですけど、1、2時間空いちゃうみたいな。みんな困っていました。

澤本:あとほら、相撲取りのオーディション。相撲取りの方って、またちょっと異質じゃないですか。

今泉:異質ですね。

澤本:ああいう人をポンと置こうというのは、どうしてですか。

今泉:俳優ワークショップをやっていて、メインの4人の女優さんと若葉さん以外は、ワークショップオーディションに来た人からキャスティングしているんです。彼の出演が決まってから、当て書きしていたかも知れないですね。丸っこい彼が出るから相撲取りを入れてみようと。人から役柄をつくっているので、古着屋のカップルも「この子とこの子をカップルにしたら面白い」っていうところから、つくっています。だから、人物から立ち上げているところもいっぱいあるんですよね。

『カメラを止めるな!』(2017年)が生まれた、ENBUゼミナールっていう学校の「シネマプロジェクト」というのがあって。自分もそこで『サッドティー』(2013年)という映画と、『退屈な日々にさようならを』(2016年)という映画をつくっているんですけど、それも内田慈さんや松本まりかさんとかだけゲストとして呼んで、あとは本当に集まった人で全部当て書きでつくりました。人物から立ち上げるのは、オリジナルのときはやれる環境があればやっていましたね。そうすると、役があってキャスティングしているわけではないので、ハマっていくのは確かにあったかもしれないですね。

澤本:じゃあ、城定(イハ)さんもそうなんですか?

今泉:城定さんは、どういったらいいのかな。元々標準語で書いていて、それで彼女に当てて、全部関西弁に直してもらったという形でした。

権八:あの子が本当に魅力的で……。

澤本:困っちゃったのよ。あの子、大好きだから……。僕的にすごい好きなタイプなんですよ。顔とかもそうだし、喋り方もそうだし。それこそ、言動。何ていうかな。愛らしさ?いるじゃない、ああいう人?

権八:いますね。イハちゃんが、もうダントツに魅力的!

中村:魅力的でしたね。

澤本:ねえ。そう見えちゃうもんね。

権八:見えちゃう。

今泉:謎の魅力ですよね。でも、魔性というほどの色気とかでもなく。

中村:そうそうそう!

今泉:そうなんですよね。

権八:自由な感じがしますね。自由な子っていうか、すごい清々しくて。

澤本:うん。清々しい。

今泉:色気側にいっちゃうと、そうならないんですけど。それも演出じゃなくて、彼女が公開に向けて取材を受ける中で、「関西弁ってやっぱり距離が近づいちゃうから、なるべく言葉を雑に吐いていた」って言っていたんですよ。

澤本:なるほど。

今泉:それは意識してやっていたって言っていて、なるほどと思って。こっちでコントロールしないと、そういうことを勝手にやってくれるんだなって。

権八:なるほどね。でも、分かるわ。その感じね。

今泉:面白かったです。

澤本:役者さんのことを語り出すと、みなさんテレビとか出ていらっしゃる方じゃないけども、うまいしさ。監督役の女の子とか!

権八:うん。あの子ね。

澤本:あの子。監督、ああいう顔しているよね。

中村:あの顔している。

澤本:しているよね。

中村:本屋の子もああいう顔している。

澤本:そう! みんなそうなのよ。

今泉:メインの役どころの4人の女優さんって、みんな年齢は20代で似通っていたので、誰がどこでもいけるじゃないですか、極端な話。だから、「誰をどの役にするか」っていうのを、プロデューサーとずっと話していました。

一同:あ~。

今泉:もちろん、今は演じているのを観ちゃっているから、それぞれ「あの役以外ない」と思うんですけど、例えば、あの気の強い監督役の萩原みのりさんと古本屋の古川(琴音)さんが逆もあるかもしれないし、とか考えてましたね。あの4人はずっと迷っていて。でも、結果としてあの並びで間違いなかった。

澤本:よかったです。

今泉:萩原さんは、やっぱり強さがあるし。前に色んな話を聞いていて、彼女がすごい負けず嫌いっていうのも知っていて。今はどうか知らないんですけど、かつては同世代の女優さんが出ている作品はほとんど観たくないくらいだったらしいです。その役を自分がやっていた可能性があるから、みたいな。それくらい強気な方っていうの知っていたんで。

澤本:へえ~。

今泉:その辺は強い監督像に反映されていたりしますかね。

澤本:本当に役者さんが魅力的で、役者さんが魅力的に見える脚本で、そういう撮り方をされているから。ちょっとショックだったんですよ。本当に。

権八:ヒロインの誰が好きかで、イハが魅力的だって言ったけど、人によって分かれるかもしれないですね。観終わったあとに、そういう感想大会もあるかもしれない。

澤本:あるよね。

今泉:4人の女性と青の関係でいうと、恋愛感情があるのかないのかも……。あやふやな視線とかを、中盤にいっぱい撮っているんで。「あれ? やっぱり好きなのかな」「コイツは恋愛感情じゃないのかな」とか……。それも観終わった後に、色々話せるかもな、と思ってやっていました。

次ページ 「「満足したら引退」と言っていたのに、満足しちゃった」へ続く

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