【前回コラム】「世界で活躍する日本人マーケターの仕事(欧州日清食品 田上伴光さん)前篇」はこちら
欧州日清食品
Marketing Director
田上伴光氏
1997年大学卒業後、博報堂に入社。マーケティング部門に配属され、日本、タイ、シンガポール、インドで駐在勤務。2015年に日清食品に入社し、「日清ラ王」など高価格帯商品群のブランドマネージャーを経て、19年より、Nissin Foods Europe(Germany)へ海外出向。現在は、Marketing Directorとして、汎欧州のマーケティングを担当。1)日本が誇るラーメン文化・即席麺文化を欧州に伝道すること、2)「カップヌードル」を、コカ・コーラ、マクドナルドに比肩する世界ブランドにすること、3)日本発グローバルブランドの成功事例・成功法則を生み出すことに奮闘中。
あらゆるリソースがそろっている、リーダーポジションにある日本との違い
—コロナに関係なく、欧州でマーケティングをする上で日本との違いを感じることはありますか?
大きく3つの違いがあると思っています。1つ目は汎リージョンマーケティングで、多国籍展開が必要になる点です。日本のように単一国を対象にしたマーケティングではなく、20カ国以上に跨る地域全体を見た上でエリア戦略を定めます。どのエリアをまず攻めていくのかを決めるわけです。様々なフレームワークで各市場を見た時に、どのマーケットが我々のブランドと相性が良く、狙う価格帯のカテゴリーが作れそうか、どの市場が経営に与えるインパクトが大きいのか、事業貢献度が高いのか、という観点で注力する市場を決めています。現在は、イギリス、ドイツ、フランスを特に重要なマーケットとして見ています。
2つ目に事業ステージの違いがあります。例えば、日清食品は日本だとリーダーポジションです。社内にもあらゆるリソースが揃っています。一方で、欧州日清食品は、日本のようなステージには至っていません。当然、やるべきマーケティングは違ってきます。
日本にいると、欧州という大きな市場を一括りで見てしまいがちです。20カ国以上もある欧州がまるで1つの国のように見えてしまうわけです。しかし、実際は20カ国それぞれで市場環境は異なります。各国ごとにマーケットを分析し、国ごとの競合やシェアをマトリックスにすると、一つとして同じ状況の国はなく、すべて順位の異なる競合環境であることが分かります。我々はこれをモザイクマーケットと呼んでいます。この認識を日本本社と共有し、事業ステージに合った戦略を展開していくことが大事だと思います。
そして3つ目は、マーケティングアサインメントの違いです。守備範囲の違いとも言えます。日本には色々な部署がありますが、欧州では人的リソースが限られていることもあり、戦略をつくるという上流の業務から現場レベルのオペレーションまで回さないといけません。さらに、こうした業務の縦の広がりだけでなく、横の広がりもあります。縦と横に役割を広げないといけない点も、海外に出た時のチャレンジのひとつだと思います。