【前回コラム】「世界で活躍する日本人マーケターの仕事(欧州日清食品 田上伴光さん)後篇」はこちら
フィリップス(オランダ本社)
シニアコンシューマーマーケティングマネージャー
藤井崇雅氏
上智大学比較文化学部卒業後、パナソニックのグローバルマーケティング部門を経て、2012年フィリップス入社。日本市場における理美容家電のブランディング・キャンペーン展開等に従事。2017年よりアムステルダム本社にてグローバル商品企画を担当。
消費者を理解した上でエンジニアやデザイナーと一緒にものづくりをしていきたい
—現在、フィリップスのオランダ本社にて、どのようなお仕事に携わっているのですか?
2017年からオランダ・アムステルダムにあるフィリップスのグローバル本社で商品企画を担当しています。それ以前は、日本のフィリップスで、5年弱シェーバーのマーケティングを経験しました。オランダに来てからも3年半ほどシェーバーの商品企画に関わりました。
日本にいた時は当然、日本のマーケットしか見ていませんでしたが、オランダではグローバルマーケットを担当しています。そして現在は、空気清浄機のグローバルの商品企画を担当。ポジション名はコンシューマーマーケティングで、わかりやすく「商品企画」と言いましたが、消費者を理解し商品を開発してマーケットへアプローチする戦略まで考える、商品に関わるすべてをリードする役職です。
—日本のメーカーの場合、商品の企画は技術部門から出てくるケースが多いと思いますが。
フィリップスでは、コンシューマーマーケティングが初期段階から関わっているので、消費者の声をもとに、開発の方向性を技術部門に働きかけていきます。技術部門が開発した商品をマーケティングがどう売っていくかを考えるリレー方式ではありません。
例えば「この技術を用いた商品であれば、このくらいのビジネススケールが見込める」とか「この技術は、こんな課題を持った消費者ニーズにマッチする」といった議論を何度も行います。
広告を始めとしたマーケティング・コミュニケーションに関しては別部門があり、商品のローンチ時期が見えてきたら、彼らに対して社内オリエンをします。その後、マーケティング・コミュニケーション部門がキャンペーン全体の設計を組み立てるわけですが、そのディレクションもコンシューマーマーケティングの役割です。
—これはオランダ本社だからこその動き方なのでしょうか。
そうですね。日本の時は、少し立場が違いました。日本にいた時は、現在の私の立場にあるグローバルチームが企画した商品を日本のマーケットに持ってきて、どのようなキャンペーンを仕掛けて売っていくかというマーケティング・コミュニケーションがメインのジョブでした。
また、グローバルのマーケットと日本における違いもあります。
フィリップスのシェーバーは世界でNO.1のシェアを誇るので、多くの国においてはすでにフィリップスユーザーであるお客さまに対して、どうトレードアップを働きかけていけるかが重要な戦略となります。しかし、日本では競合他社の2社が市場をリードしている状況ですので、フィリップスは第3の選択肢を提示しないとならない。トップシェアの海外とは違う、日本ならではの切り口を見つける必要がありました。
私が日本のマーケットを見ていた時は、他社のシェーバーは4枚刀や5枚刀の魅力を謳っていて、この文脈で私たちが挑んでも難しいと判断しました。深剃りへのパフォーマンスではなく、肌へのやさしさというもう一つの大きなニーズを語り、フィリップスのシェーバーであれば、あなたの肌を綺麗に保つことができるという訴求を行いました。これが日本のコンシューマーに受け入れられて、マーケットシェアを2倍に伸ばすことができました。ローカライゼーションしたコミュニケーションの大事さを感じた瞬間でしたね。
日本はフィリップスにとって重点市場なので、日本のコンシューマーに対する調査を早い段階で行っていたこともあり、深剃りと肌へのやさしさがシェーバーに対する2大ニーズであることは分かっていました。そのためコミュニケーションだけでなく製品に関しても、肌へのやさしさというニーズを反映してもらえるように本社の開発側に依頼していて実現することができました。