関係者の専門性を引き出すことがリーダーシップのありかた
—オランダと日本の働き方の違いは感じますか?
日本はどちらかと言えばトップダウンで、一度決まると一気にスムーズに進む感じだと思います。一方、オランダのカルチャーは平等文化というか、水平文化です。みんなが平等に感じられるように、皆で決めることを重視しています。そのためのディスカッションに要する時間がすごく多くなりました。本当に意見を出し合いすり合わせをするためのミーティングです。日本のミーティングは、根回しが済んだ後の開催で、儀式的なものだったと感じます。
こちらのミーティングでは、全員がアウトオブボックスのマインドで現在、存在する制約を一旦外して、本当に消費者にとって何がいいのかを、役職に関わらず全員で意見を出していきます。こうしたカルチャーもあり、リーダーシップの発揮の仕方にも違いがあります。
リーダー像はどちらかというとファシリテーターに近い。色々な方からその人の意見を汲み取って、専門性を引き出して、プロジェクトをまとめ上げていくのです。日本ではメンバーはリーダーの意思決定を待っているイメージだと思います。どちらかというとリーダーに方向性を決めて欲しい。これが進むべき方向で、これをみんなでやっていこうというのが日本のリーダーシップではないかと思います。
オランダに赴任した当初は「これが目指すべき方向だ」と言ってしまい、チームメンバーが白けるという場面が何度かありました。最初は自分の何が悪いのか分かりませんでした。どんどんプロジェクトが停滞していくので、チームに対して「なぜやらないんだ!」と思っていたほどです。ただ周りの人がどんな風にリーダーをやっているかを見て自分の間違いに気づくことができました。そこからやり方を変えていかないといけないと感じたものの、結局このスタイルに慣れるまでに2年くらいかかりました。
その後は、自分はマーケティングというポジションに特化することにし、仕事で関わる人のそれぞれの専門性を尊重することに舵を切りました。デザインはデザイナーに、技術は開発チームに任せて、自分はファシリテートするだけの役割だと割り切ったのです。
例えば、デザイナーが「こういうデザインがよいのでは?」と提案して、それに対して技術開発側が「技術的に無理だ」という意見が対立した時には、マーケティング担当である私は消費者の代弁者ですので、消費者の視点で見た時にあるべき方向を提示するという感じです。
こういうスタイルのリードが少しずつできるようになって、プロジェクトがスムーズに進むようになりました。その結果、「自分たちがリスペクトされるようになった」「皆の意見をまとめていけるリーダーになった」という評価を、360度評価の場で言われるようになりました。
もう一つの日本との違いですが、こちらでは自分のキャリアは人事異動を待つというよりも自分で取りに行くというスタンスがあることです。そして、そうした時に必要となるのはコネクション。いかにどんなポジションが空くのかという情報を事前に教えてもらえるかが大切です。
日本では飲みに行くことで、コネクションを築けるかと思います。私はあまり飲むのが好きな方ではなかったのですが、実は飲みニケーションに頼っていたなと感じました。こちらではみんな17時には帰りますので、飲みに行って関係性を築くことはあまりできません。その分日々の仕事の中で、信頼を勝ち取る重要性を痛感しています。新しい人と仕事をするときは、最初の10分で、「この人に聞けば大丈夫だ」と思ってもらえるように、ディスカッションをリードしないといけないという意識になりました。
病気を未然に防ぐために投資するという消費者の意識の変化
—オランダにおいてコロナパンデミック発生時期はどのような状況でしたか?
コロナについては正直、最初は他人事でした。ただ2020年3月頃にオランダに第一波がやってきて、大きなイベントが中止されたり、カフェやレストランが閉鎖されたりしました。パニックが起きて、スーパーからトイレットペーパーや卵が消えました。自宅勤務になってオフィスにも行かなくなりました。ただマスクはまだ浸透しておらず、5月頃になって公共交通機関でマスク着用が必要になりました。
その後、徐々に規制が緩和され、7月のバケーションシーズンはリラックスした感じで、海外旅行に行っている人もいました。ただその後に第二波が到来して、カフェやレストランがまた閉鎖になり、12月には雑貨屋など他の店も休業となりました。12月には夜間外出禁止令もでました。
感染者数は今も日本に比べると何倍もいると思いますが、ワクチンの存在があるからか少しずつ日常に戻りつつある印象を受けます。だんだんと光が見えてきたようなマインドだと思います。現在カフェやレストランはテラス席での営業はできるようになっています。
—仕事への影響はありましたか?
コロナパンデミックによる仕事への影響ですが、まず消費者リサーチが実施できなくなり、全てオンラインによる実施に変更になりました。ただ「意外とできるね」という感触を持ちました。ただ外出機会が減少していることもあり、シェーバーのニーズが停滞したため、マーケティングキャンペーンは中止にしました。