(本記事は月刊『ブレーン』2021年8月号の特集、「事業成長に貢献する スタートアップ企業のクリエイティブ活用」に掲載したものです)。
デザインの意味が大きく変化してきている
鳥羽:今は多くのデザイナーが課題解決に取り組んでいますが、そもそも課題を見つけられる人が少なくなってきています。だからデザイナーの役割が「課題を見つける能力」と「それを解決する能力」のセットになっていますよね。デザインの意味が大きく変わってきた。以前は経営者にデザインの話をすることはなく、広告業界やアーティストの世界の話でしたから。今回の僕ら3人も、仕組みをデザインする側ですし。
山本:事業会社がUIデザイナーやプロダクトデザイナーを募集するようになったのって、ここ7 ~ 8 年ぐらいですよね。
鳥羽:そうですね。今はビジュアルをつくれるだけのデザイナーは、求められることが少なくなっている。僕はレストラン事業の会社「sio」と、博報堂ケトルと組んで飲食関連の商品開発、PR、戦略まで手がける「シズる」の2つの会社を経営していて、今はとある地域を食の力で復興させるプロジェクトに取り組んでいるんですね。この一連のパッケージは他の地域にも水平展開できるので、このビジネスモデルはもうデザインです。こういう大枠のデザインのほうが今は注目されているから、デザインの力を何に使っているか、ということが重要になっています。
高橋:僕はデザイン会社のIDEOとパートナーシップを組んでいるD4Vというベンチャーキャピタルで働いていて、投資先の会社をグロースさせるためにデザイン面からサポートをしていく仕事をしています。たとえばシード期のスタートアップでいうと、課題解決型のデザインを一番必要としていますね。
山本:何年か前だったら、スタートアップの創業期にはまずエンジニアを雇ったり、共同創業者にエンジニアが絶対必要だったりする一方で、本格的にデザイナーを探し始めるのはシリーズAくらいの資金調達後ということが多かったと思います。そのエンジニアがデザイナーに置き換わるような事例は生まれていますか?
高橋:デザイナーが早い段階から必要と考える起業家は増えていますが、その事例はまだ少ないかもしれません。どうしてもデザイナーとビジョンだけでは、プロダクトを世の中に出せないので。ただ、日本と海外のスタートアップを比較すると、デザイン人口は海外に比べて圧倒的に少ないです。課題を見つけてソリューションをつくれるデザイナーがあまりいないんですよ。でもニーズはあるので、D4Vではそういうデザイナーを育成するために「Startup FirstDesigner Program」を実施しています。
鳥羽:総合力を持っているデザイナーは、まだ日本には少ないですか?
高橋:いるんですけれど、スタートアップで働きたい層は少ないですね。立ち上がったばかりのスタートアップは給与も限られるし、ストックオプションはあっても、すぐにはお金にならない現実がありますから。
山本:僕はフリーランスで10年ほどデザインの仕事をした後に制作会社を立ち上げ、売却、その後カウンターワークスに入社しました。その立場からスタートアップに入った理由を言うと、企業の新規事業では、リリース後のサポートが薄くなってしまうことが多い。結果的にどういう社会インパクトがあったのか、というところまでを併走しにくいと感じたんです。そこで、中長期的にプロダクトの成長に関わっていきたいと、元々クライアントとしてUIデザインを担当していたカウンターワークスに入りました。
鳥羽:スタートアップの創業期は、お金がかかるデザインの部分はどうしてもアウトソーシングして、単発での依頼になってしまいますよね。でも、長い目で見ると、そこは企業の根底に関わることだから、最後は内製化しているほうがよくて。でも、やっぱりなかなかできない。
高橋:そうなんですよね。最初のプロダクトづくりに最もデザインが重要になるんですけれど、その後のお金が増えてきてから皆注力し始めるんですよね。
必要とされるのはどんなデザイナー?
山本:D4Vではデザイナーの採用のサポートもするんですか?
高橋:します。最初はどんなデザイナーを採用すればいいかわからないというスタートアップが多くて、ロゴもUI/UXも、何でもできるユニコーンデザイナーを求めるんです。でも、そんなデザイナーはいないし、いたとしても超高級な一流デザイナー。実際はフェーズによって必要なデザイナーは違うので、そこをサポートしていきます。
鳥羽:それは、凄いですね。
高橋:必要とされるデザイナーは3つに分けられると思っています。最初の“つくるフェーズ”は、課題解決して、それに対してソリューションをつくれる、早いスピードで検証プロセスを回していけるデザイナー。2つ目は、プロダクトが完成してもユーザーに伝わらなかったら意味がないから、伝えるデザイナー。ブランドのロゴや、アイデンティティをつくるデザインもそうだし、言葉やグラフィックで誰に対して何を伝えるかを考えられるようなデザイナーですね。3つ目は、ある程度プロダクトが売れてきたら、それをグロースさせないといけないから、最適化・改善が得意なデザイナー。うちではそういう風に分けています。
山本:僕は何となく2種類あると思っていて、アートディレクターっぽいデザイナーと、あとはフルスタックっぽいデザイナー。前者のほうが事業や会社全体をどう見せていくかというブランドづくりをメインに関わるような人。広告会社のデザイナーにも多いかと思います。後者はスタートアップで一番重宝されるパターンで、絵も描けて、ユーザーヒアリングもできて、多少はプログラミングもできるタイプ。
鳥羽:シズるは博報堂ケトルと組むことで、そういう要素を会社に入れちゃったんです。クリエイティブはケトルが見て、副社長はリクルート出身でマーケティングもやっていたからマネタイズの仕組みのデザインができる。そこに力を入れているレストランの会社ってないんですよね。どこもシェフの資質によるところが大きいから、飲食ってすごく難しいなと思います。だから飲食業をコンサルしたら、とても重宝されるんじゃないかなと。
高橋:可能性がありそうですね。
鳥羽:単一のレストランだけの収益だとそもそも難しいんですよ。だから、その事業を主に置かない方が、リスクは低いんですが、誰もそれを教えてこなかった。本当は、どこか別にマネタイズできるポイントを持ってから始めるべき。マネタイズにあたっては、デザインのことがわかる人がいるといいんですよね。
高橋:飲食においてファストフード以外のビジネスモデルってあまりないですよね。
鳥羽:そうですね。たとえばD2Cのサブスクリプションサービスで物販を拡大しながら店舗も経営していくなど、マネタイズするポイントが点ではなくて面になっていくようなやり方が必要。さもなくば、コロナ禍のような緊急事態下に対応できない。当社ではすき焼き店「㐂つね」も手がけていますが、商業施設に入ることで名前が知られた。そして、店舗での売上を確保しつつ、D2Cで割り下を売り、デパートでは弁当を売る。こうして3つのマネタイズポイントができました。飲食業は変わらなきゃいけないフェーズに差しかかっていますよ。
高橋:店舗での売上以外の領域にも、デザインの視点を入れたら、いろんなことができると思うんですよね。
鳥羽:これからどんどん領域を拡大すれば、市場価値も高まっていきます。僕らもYouTubeチャンネルを立ち上げて、そこでファンを増やしていき、オンライン料理教室をやる予定です。8000人のユーザーがいれば、月1回3000円で、月2400万円入ってきて、1年続ければ3億6000万になる。そこにECを連動させれば、そのファンの人たちがECで販売する商品にもきっと興味を持ってくれる。こういう流れをデザインしているんです。結局、求められているのは想像力ですよね。
高橋:そうですね。世の中では課題解決と言っているものの、デザイナーが得意なのは想像することですね。ロジカルなだけではなく課題に対して想像力を発揮して、解決することが求められていると思います。
デザイナーが経営者視点を身につけるには
高橋:今はデザイナーも経営者視点を身につけたほうがいいですよね。
(……この続きは7月1日発売の月刊『ブレーン』8月号に掲載しています)。
本記事のこの後のTOPIC
・デザイナーも事業を経験すべき
・デザインの民主化が進む時代に、デザイナーが生きる道とは
月刊『ブレーン』2021年8月号
【特集】
事業成長に貢献する
スタートアップ企業のクリエイティブ活用
・ALE
・カミナシ
・ギフティ
・BASE
・Clear
・原崎農園
・スタートアップが求めるデザイナー、デザインとは
高橋亮(D4V)、鳥羽周作(sio/シズる)山本健人(カウンターワークス)
【青山デザイン会議】
宇宙のテクノロジーとデザインの融合
清水陽子、袴田武史、山下コウセイ