16時間目:西アフリカ、ベナン共和国の「満月の夜だけ開かれる学校」についてゾマホン氏に聞く

【前回コラム】「15時間目:「なぜ生徒たちがあんなに手を挙げるか教えましょうか?」伝説の教師クマGの教え」はこちら

イラスト:萩原ゆか

今回の伝説の授業のガイドはこの方。

「つまらない者、ゾマホンと申します!」

 
前駐日ベナン大使、ゾマホン氏。2000年前後に放映されていた人気テレビ番組「ここがヘンだよ日本人」をご覧になっていた方も多いだろう。

なぜ今回はゾマホンの登場か?彼の故郷、西アフリカはベナン共和国。そこでは、満月の夜にだけ開かれる学校があるという。その話を改めて聞きたいと思ったからだ。

彼の話は、とても面白い。だが、スイッチが入ると止まらない上、遠くまで脱線するトークの暴走特急。なので、早速インタビューを始めたい。

倉成「ベナンには、満月の夜だけ開かれる学校があると聞きました。

子どもも昼間は働いている。だから学校に行っていない子も多い。その代わりに、明るい満月の夜に、長老が子どもたちに世界や人生について教える学校を開くと。今日は、そのことについて詳しく教えてください」

ゾマホン「私の故郷である西アフリカのベナン共和国のダサズメの田舎では、満月の時というのはとても大事です。

私がよく覚えてるのは、毎月お月様が出たら(補足:新月の次の夜の、小さな三日月のこと。月齢1の月)みなさんが喜んで喜んで、誰でもみんな、大人から子どもまで、外に出て、今月は元気になるように、いっぱい仕事できるように、絶対成功できるように、お願いします!祈ります!ということを大声で喋るんですよ。病気になっている人も外に出て、悩んでる人も外に出て。月が出たよー、って。

月は幸せを、運んでくる。元気、運んでくる。成功を、運んでくる。月は全てのお医者さんみたいに解決する。それが月の役割。

月と太陽がないと人間社会の生活は、まるでできない。ベナンで月は、女性の象徴。いわゆる愛情の代表。太陽は、男の象徴。いわゆる戦う、血の代表です。

月は、毎晩毎晩、どんどん大きくなるでしょう?そして満月の夜に、バオバブの大きな木の下で、大人が子どもたちを集めて、歴史の話を始めるんですよ」

「お。ついに伝説の満月の学校の話ですね」

ベナンの大きな木。こんな木の下で満月の夜の学校は開かれる。

「どんな教育であるかというと。

まず、村の歴史。この村がどうやってできたか、誰が作ったか、教える。

次に、環境はどういうものであるか?環境は壊すよりも守るべきだ!と、教える。

そして、国。我々の国はどんな国であるか。誰が作ってきたか。そのあとは、社会の階級。階級社会だから。それぞれ階級の役割、歴史を学ぶ。あと、人間社会の行動様式。モラル。哲学、宗教、技術。

そして、家の中の人々の役割ね。一番偉いのはお父さん。女性を軽く見るのじゃなくて、女性イコール生卵、一番大切にしなきゃいけない、という教育。生活をうまくいかせるため、国を発展させるために、女性を大切にしないといけません。完全な男尊女卑とは違う。家庭を幸せにするために女性を大切にしないとダメです。女性教育は一番大事。

そして、村の中で、それぞれの家は、職業が決まっている。一つの村が社会になっている。家で、役割が決まっている。そのような話。この人は軍人の家とか。

例えば、私の場合は、お母さんのお父さんが狩猟民族だった。お父さんのお父さんがイガンガン村を作った。その人々は地面に住んでなかった。岩山の中に住んでたんです。奴隷政策の時期に、岩山から地面に出て、農作業。地面の生活始まったですよ」

「学校の話、色々聞いていきたいですが、まず先生は誰なんですか?」

「一番年上の人。長老」

「何歳くらい?」

「例えば90歳とか。とにかく年齢が年上の人。例えば、私みたいな50歳代の人が、私の下、10代から40代までの人々を教えるのも、アリ」

「子どもたちを木の下に集めて、長老の人がずーっと喋る?」

「はい」

「ゾマホンみたいに?」

「ゾマホンより短いかもしれない」

「話は脱線する?ゾマホンみたいに?」

「それは確かにする。もちろんする。ずーっと喋る」

「ハハハ。何時くらいからですか?」

「暗くなってから、子どもが寝る時間まで。時計なかったから、大体7時から9時までくらいかな。子どもたちを寝かせなきゃいけないから」

「始まりの合図は?」

「暗くなったら集まってくる」

「バラバラに集まってこない?7時集合!とか言えないとしたら、集まるまで時間かからない?」

「時間かからないよ。暗くなったら集まるから。まずご飯を食べる。男女に分かれて。それで、ご飯の後に教育。自然に始まる」

「子どもたちは何人?」

「30人」

「大人は1人?」

「大人は大体40人」

「そんなに大人もいっぱいいるんですか」

「大人の話もあります。子どもの次は、9時から大人向け」

「へー。どんな話を?」

「もっと大人向け。家庭を作るなら、どういう風に奥様と子ども達を扱うか、の教育。10代の人には教えられないでしょう?そういう教育」

「それは何時まで?」

「ま、11時まで。とにかく12時前。遅くても朝5時から活動するから」

「遅くても5時!?それは無理だなあ…。教える人は立ってるの座ってるの?」

「みんな座ってる。子どもたちは地面。先生は木の上」

「木の上!?」

「木の根っこの上ね」

「びっくりした〜。その学校はいつからあるんですか?」

「それは伝統的な学校ですよ。ずーっと前から、植民地の時期から、18世紀から始まった。350年くらい前から」

「それは全部の村がやってるんですか?」

「うん。各村が」

「今もやってる?」

「田舎はやってる。けど少なくなった。近代的な学校ができて、子どもたちも小学校行かなければならないし」

「ゾマホンは何歳の時に行ったんですか?」

「男は5、6歳から行く。先生は20代の人。長老に教育を受けた人」

「教えてもらったことで覚えてるのは?」

「いーっぱいあります。例えば、夜、石鹸を使って体を洗うのは危ない。やってはいけない。なぜかというと、匂いがすると蛇が寄ってくるから。とても大事な教育です。できるだけ農作業から帰ってきてからすぐに体を洗う。夜洗ってはダメ。暗くなるとやってはいけない。

あとは、日常生活に必要なこと。夜は部屋の中の掃除をやってはいけません。家の中では靴を脱がなくてはいけません。これは、日本と全く同じ。

ご飯を食べる時は、毎日長老のところに、各家から食べ物を持って集まる。そういう時は、男の子と女の子は一緒に食べてはいけない。男の子はお父さんたちと、女の子はお母さんたちと喋って食べる。

そして、年上の人に対して、文句を言ってはいけません」

「なぜですか?」

「年上の人は知識がいっぱいあります。人生を経験している。そして、年上の人は、年下の人を保護する義務があります。

子どもが学校の先生に文句言って、学校に刃物を持ってくる事件とか、日本で子どもが起こす事件をニュースで見たことあるでしょ?アフリカでは考えられない。想像できない。

文句を言うと罰を受けるから。こんなことがありました。

食べる時、スプーンとかお箸じゃなくて、手で食べるでしょ?水が入ってるお皿で手を洗うのですが、誰が最初に手を洗うか?まずは年上の人。私は一回間違えた。農作業やって帰ってきたら、みんな揃って座ってて。お腹空いてたから、水が入ってるお皿で年上の人より先に手を洗った。そしたら、いきなり20代の人が私の頭を殴った。それで、私は意識不明」

「えー!?」

「その人は悪くない。その時ゾマホンが死んでもいいんですよ。あなた方は日本に住んでるからそれはいけないと言うけど、そうじゃないんですよ。そういう厳しい教育」

「学校に話を戻すと。どうやって教えてくれるんですか?教え方は?」

「まずはお話で教える。例えば…

子どもが困ったら、誰に助けてもらうか?やっぱり大人です。年上の人です。だから、子どもが年上の人に文句を言ってはいけない。なぜかと言うと、年上の人が年下の人を守る義務がある。守るべき。守られるように、文句言ってはいけません。学校の中で先生に文句言ってはいけません。家の中でお父さんやお母さんに文句言ってはいけません」

「終わり?そしたら?そのあとどうするんですか?『質問ある人は?』とか言う?」

「『みんな分かりましたか?』『かしこまりました』と言う。

他の物語は、例えば絶対危ない蛇に噛まれない人の話。なぜかというと昔、その蛇はその地域の人々を救ってきた。その代わりに、人も蛇を殺してはいません。歩いているときも、森の中にいても、蛇を見たら大事にする。もちろん食べてもいけない。だから絶対に蛇に噛まれない。違うところから来た人々だったら蛇に噛まれるかもしれません。その人たちのことを蛇は知らないから。その地域の人間と違うから」

「蛇も覚えてるから大事にしなさいよ、と言うこと?有名な話?」

「有名有名。私の母が狩猟民族ですね。蛇とか、ライオンとか、象とかぜったいに噛まれない。お父さんは、象と話ができる。見たら、『お前か、俺だ』みたいな。そういうパワーもあるんです。犬と同じ。犬はあなたのことをよくわかってるでしょ」

「歌で教えることもある?」

「教育の歌もあります。聞きたいですか?

『イバニアイバウニア ~ ♪』

気持ちよく歌を歌って聞かせてくれるゾマホン。

これは、『年上の人が年下の人が呼ぶときは、早く元気に走って行かなければいけない!』という意味の歌」

「へー。じゃあ、ゾマホンが遅刻するのは、僕らが年下だから?」

「それは近代的なフランスの教育を受けたから。そっちは偉い人が遅れてくる」

「あっそう…。ま、それはそれとして。

満月の夜に2時間くらい教えるんでしょう?話も歌も1個1個短いじゃないですか。1日に何個くらい教えるんですか?」

「いっぱい話す。1日に10個でも。できるだけ喋る」

たまたまこの日、同じ場所にセネガル出身のマンスールさんもいらっしゃったので、聞いてみる。

「セネガルも一緒なんですか?」

マ「セネガルは、焚き火を焚いてやる。でもゾマホンが言ってることは共通のところがあるよ、西アフリカは全部」

「満月は月に1回だけど、焚き火だと毎日できるじゃないですか?」

マ「毎日やってる。セネガルはコーラン勉強する。イスラム教の聖典勉強するので、板みたいなものに書くのね。セネガルは1000年前にイスラムが入ったので。でもゾマホンが言う伝統的なところは共通」

「満月の学校の方は、教科書とかはなかったんですよね?長老の頭の中だけ?」

「紙ないよ…当時その時期は。みんな記憶。記憶はいいですよ。でも、村の満月の学校ってなくなりつつある。だから、やっぱり紙にしたり、絵本とかね、作らないといけないと思っています」

「世界中を見て、教育ってどう思う?」

「教育はとっても大事。それは永遠に続かないといけないと思います。

アフリカに関する近代の教育の内容は完全100%、宗主国である欧米諸国の教育のコピーですので、アフリカの開発には悪い影響を与えている。

セネガルでもベナンでもフランス教育を受けると、自分の国を発展させようという考えを持つようになる人は非常に少ない。みなさん欧米の国々で生活したいと思うようになる。それは残念。

近代的な教育の内容と土着が関係ない。現地の事情と関係ない。アフリカ諸国の55カ国の状況は全く同じです。だから、近代的な教育は伝統的な教育に基づいて新しい教育を作らないといけないと思っております。結論として」

「たけし日本語学校もその取り組みの1つ?」

「そうです」

たけし日本語学校というのは、ゾマホンがベナンの首都コトヌーに作った日本語学校。高校生から社会人まで、性別や社会的身分などを問わず無料で日本語を教えている。ゾマホンさんにとって恩人である北野武さんに感謝の気持ちをあらわすために学校の名前に「たけし」とついている。

2018年、僕は仕事でベナンに行くことになった。そのついでにたけし日本語学校で授業をしたのが、ゾマホンとの出会い。なんでゾマホンとタメ口交えて話しているかと言うと、そういう経緯があったから。

その体験は本当に貴重なものだった。

たけし日本語学校の方と相談して、計画したのは「みんなで日本語の辞書を作る」授業。なぜなら、辞書がないから。紙がないわけではなく、ベナンは公用語のフランス語以外に20 以上の言語がある上に、学校では日本語で直接教えているため辞書がない。

でも普通の辞書じゃつまんないから「誰かに教えたい日本語の辞書を作る」授業をすることにした。

「誰かに」というのは、家族でも、友達でも、恋人でも。そして、これから日本語を学ぶ後輩たちを含めて、という意味で。みんなが書いたものを束ねれば、後輩のためになるから。

シートを配り、①誰かに教えたい日本語 ②意味 ③例文 を書いてもらう。

あと、指示としては、まじめな日本語と、ふざけた/面白い/おばかな日本語と、2つ書いてね、と言いました。

授業はまず起立して、日本とベナンの国歌斉唱。そして、たけし日本語学校心得を日本語で唱和する。その心得は「一、正直であること 二、言い訳はしないこと 三、心身共に健康であること 四、十分に努力すること 五、最後まで手を抜かないこと 六、自分以外の人はすべて敬うこと 七、常に感謝の心を忘れないこと 八、自分の利益のためだけではなく、人のためにも動くこと」

さてさて、それで、みんながどんな日本語を書いたか、というと。

ほんと、めちゃくちゃ日本語がうまい。びっくりした。そしてそれは丁寧な日本語。少しだけご紹介する。面白かったり、ハッとしたり、泣けたり。

こちらが誰かに教えたい日本語を書いてもらったシート

例えば、
「誰かに教えたい日本語:ともだち 例文:友達のあらさがしをするな」

のようにみんな書いてくれている。面白かったものを紹介すると、

「しんじる」意味:ひとのことをうたがわないことです。
「きぼう」例文:きぼうがあれば、とんでもないことができます。
「泣く」例文:泣いてもいいですよ。じんせいはあまくないですから。
「成功」例文:自分のもくてきをめざしてできたのは成功です。
「言葉」例文:かのじょにプロポズをするとき、いい言葉をつかわないと、ことわるかもしれない。
「つま」例文:わたしはけっこんした。だから、かのじょはつまになる。
「びっくり」意味:あたらしい、わからないことです。

すごいでしょう?日本人が忘れているものが、向こうにはある。そんな学校がたけし日本語学校。独自の教育の努力をゾマホンは祖国でしているのだ。

ちなみにこんな面白いものもあった。
「けち」意味:なにもあげたくない者。 例文:私の弟はけちです。
「へべれけ」意味:たくさんお酒をのんだひとの、じょうたい。 例文:あの人はここで一人でのこったら、へべれけになります。
「ほうれんそう」意味:日本人のかいしゃで、ほうこく/れんらく/そうだんは、いちばんたいせつなことです。

なんで知ってるの?と聞いたら、漫画で、だとのこと。これがワールドスタンダードのリアリティー。

たけし日本語学校での授業を終えてみんなで撮った写真。人生の宝物が1つ増えた瞬間。

「最後に1つ聞いていい?満月の学校の先生になる資格ってあるの?お前が先生になれ!と言われるとか?」

「違う。違う。大人はみーんな先生。日本とかみたいに先生の免許取るのは、近代的な教育。大人はみんな先生です」

そう。先に生まれた人。みんな先生。

人間として根本的な話。大事な話。日本が、先進国が、忘れている話。それが、アフリカにはある。満月の夜、バオバブの木の下で、それが受け継がれている。

人類の祖先が生まれたアフリカ大陸は、全人類の先に生きてきた、まさに先生ではないだろうか。

成果主義。評価主義。イノベーションや起業至上主義。そんなことばかりを追い求める学校より、僕はこのバオバブの木の下の学校の方が好きかも知れない。

最後にゾマホンより読者のみなさまへ、一言。

「アフリカのベナンとセネガルで、待ってます!」

倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)
倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)

2000年電通入社、クリエーティブ局配属後、多数の広告を制作。2005年に電通のCSR活動「広告小学校」設立に関わった頃から教育に携わり、数々の学校で講師を務めながら好奇心と発想力を育む「変な宿題」を構想する。2014年、電通社員の“B面”を生かしたオルタナティブアプローチを行う社内組織「電通Bチーム」を設立。2015年に教育事業として「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を10人の社員と開始。以後、独自プログラムで100以上の授業や企業研修を実施。2020年「変な宿題」がグッドデザイン賞、肥前の藩校を復活させた「弘道館2」がキッズデザイン賞を受賞。

倉成英俊 (Creative Project Base 代表取締役/ アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所所長)

2000年電通入社、クリエーティブ局配属後、多数の広告を制作。2005年に電通のCSR活動「広告小学校」設立に関わった頃から教育に携わり、数々の学校で講師を務めながら好奇心と発想力を育む「変な宿題」を構想する。2014年、電通社員の“B面”を生かしたオルタナティブアプローチを行う社内組織「電通Bチーム」を設立。2015年に教育事業として「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を10人の社員と開始。以後、独自プログラムで100以上の授業や企業研修を実施。2020年「変な宿題」がグッドデザイン賞、肥前の藩校を復活させた「弘道館2」がキッズデザイン賞を受賞。

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