【前回コラム】「世界で活躍する日本人マーケターの仕事(サントリーペプシコビバレッジタイ 川口洋之さん)前篇」はこちら
Suntory Pepsico Beverage Thailand
Head of Marketing Suntory Brands
川口洋之氏
早稲田大学法学部卒業後、サントリーホールディングス入社。国内の酒類営業を経て、メキシコのグループ会社に赴任。日本帰国後、コーヒーブランド「BOSS」のブランドマネージャーを5年間担当。2017年にインドネシア赴任、2020年からタイに渡り、現在はSuntory Pepsico Beverage Thailand 社にてHead of Marketingとしてサントリー飲料ブランドのマーケティングを担当。
コロナでタイの消費者の買い物行動が変化した
—具体的にどのようにローンチしていったのですか?
新ブランドとしての認知を獲得するため、テレビCMとデジタルでの露出を強化しました。一方でコロナで人々の外出が減っているので、OOHは減らしました。タイではBTS(バンコクの高架鉄道)での広告露出が盛んですが、こうした活動は最小限に。その分をデジタル広告にシフトしました。広告媒体としてのデジタルは有効ですが、デジタルプラットフォームにおける飲料の購買量は現状大きくありません。そもそも飲料は計画購買ではなく今日の気分で選ぶものですし、かつ私たちは新商品なので、飲んだこともないものを宅配でまとめて買うというのはハードルが高いと思います。
「TEA+(ティープラス)」は飲み物として、ウーロン茶としてのおいしさを伝えるアプローチに舵を切ったこともあり、とにかくお客様に飲んでもらいたいと考え、店頭で飲んでもらうことに注力しました。タイ人のマス層のお客さんが日常的に買い物をするTT(アジアに多くあるパパママショップと呼ばれる家の近所にある小さな自営のお店。トラディッショナルトレードと呼ばれる)の店頭でお客様に飲んでもらうことに力を入れました。TTのオーナーに交渉して試飲スペースをもらって試飲サンプリングをしたり、オーナーにお願いして新しいウーロン茶が発売されたことをオーナーが来店客にアピールをしていただくことに取り組みました。
TTはご近所のよろず相談所であり、地域のコミュニティのような存在です。特に用もなく行って店主と会話を楽しんで、ついでに飲み物を買って帰るような位置付けです。その店主にお願いしてサンプリングをやってもらうことに注力しました。
さらにコロナを受けて、お客様の買い物する場所がMT(スーパーマーケットやコンビニなどのモダントレード)からTTに流れている印象を受けます。背景には、まずは通勤が減っていることです。これまでは街に出て会社に行って、オフィス近くのMTで買い物をして、というものでしたが、こうした行動が減っています。また政府が財政サポートとして、比較的所得の少ない人に近所のTTで使える金券のようなものをアプリを通じて配布しています(一部MTでも使用可)。
人々は自分のスマホに指定のアプリをインストールして、アプリ内のQRコードをTTで見せると、例えば100円の買い物に対して50円を政府が補助するような形で財政サポートを受けることができます。これは去年の第4クォーターから始まり、今も実施されています。人々の日々の生活のサポートにもつながりますし、ビジネスのサポートにもつながっていると思います。こうした背景があり、人々は自分の家の近くのTTに行って買い物をするという流れが生まれています。こうした購買行動の変化を取りこぼさないようにしたいと思っています。
こうした活動の結果、発売後まだ3、4カ月ですが、当初の計画を上回る販売が続き、お茶市場のマーケットシェアを3%程度獲得できました。ウーロン茶マーケットのシェアは9割近く取ることに成功。ナンバーワンウーロン茶ブランドのポジションも達成できました。