フランスの小売から見えたヒント ——「非計画購買」を拡大させる視点

フランスの小売から「OMO時代の歩き方」が見えてきた

ハイテクとトラディショナルが交差するパリからの山田さんのレポート、いかがだったでしょうか。今回の記事で筆者(堤)が特に印象的だったのは、フランス人は「買い物」という行為を単語レベルで使い分けていたということです。この視点は、ショッパーマーケティングにおける「計画購買」と「非計画購買」という分類で見ていくと、さらに面白い気づきを得ることができます。

まず「faire des courses(モノを買うだけが目的の買い物)」という消費者マインドの場合、もともと買おうと思っていたものを買う行為である「計画購買」に直結しています。この場合、既に買うものは決めているため、売り場やEC上でいかに最短最速で目的の商品にたどり着きやすくするかという「効率性の追求」が鍵となります。

一方「faire du shopping(娯楽要素を含めた、モノを買うだけが目的ではない買い物)」の場合はどうでしょうか。最新のファッションに触れたい、友人やお店の人と会話したい、新しいことを体験したいという消費者に対し、いきなり商品だけが最短最速で提示されたら面食らいますよね。

こうした娯楽的消費を求める消費者に対しては、宝探しのようなワクワクした導線設計をつくること、丁寧な接客で豊富な情報を伝えること、手触りや匂いなど五感で楽しませることなど、買い物におけるエンターテイメント性の付加が大切です。それが、8割を占めるという「非計画購買」を喚起する上で大事になってくるのです。

「faire des courses(モノを買うだけが目的の買い物)」
→2割の「計画購買」に直結:「効率性の追求」が鍵
 
「faire du shopping(モノを買うだけが目的ではない買い物*娯楽要素含む)」
→8割の「非計画購買」を喚起:「エンターテイメント性の付加」が鍵

また「非計画購買」はさらに4つに分類することができます。ここでは、フランスの市場(マルシェ)をベースに説明していきましょう。

①純粋衝動購買:買うつもりなかったけど勢いで買う
まずこれは市場でおいしそうなお肉を売っているのを見た時に、衝動買いするような感じです。ジュージューとその場で焼いているお肉のシズルにつられて買いたくなるようなイメージです。

②想起衝動購買:売り場を見ることで、必要性を思いだして買う
続いては、市場を歩いているうちに、八百屋さんを見つけ、「そういえば、トマトが切れていた」ことを思い出して購買するようなことです。

③提案受け入れ衝動購買:店員と話したり、POPを見て買おうと思う
これは八百屋の主人と話しているうちに、「最近はこの芋が旬だよ」とお勧めされて買うような購買の方法です。これは、ECの場合は、レコメンドのコメントを見て欲しくなるような感覚にも近いです。

④計画的衝動購買:買うカテゴリーは決め、売り場でどれを買うか決める
4つ目は、「魚を買おう」とカテゴリーを決めて市場にきたけれど、実際に売り場を見て「2割引きだから鮭を買おう」と決めるような購入です。これはECの場合は、クーポンなどのキャンペーンなどが最後のきっかけを後押しする場合があります。

非計画購買の4タイプ
①純粋衝動購買:買うつもりなかったけど勢いで買う
②想起衝動購買:売り場を見ることで、必要性を思いだして買う
③提案受け入れ衝動購買:店員と話したり、POPを見て買おうと思う
④計画的衝動購買:買うカテゴリーは決め、売り場でどれを買うか決める

こうして見ると、フランスのマルシェには「非計画購買」を拡大させる視点が多くあることがわかりますね。これからのOMO時代こそ、こうした人と消費の偶然の出会いをつくるエンターテイメント性が大事になってくるんだと思います。

フランスの小売が教えてくれることは、「人生も買い物も、『計画通り』だけじゃつまらない。OMO時代の店頭とECで、偶然の出会い(非計画購買)をつくりだそう」というメッセージなのかもしれません。

今回の「世界の小売から」のワンポイント解説のスライド

以上、今回の「フランスの小売から」楽しんでいただけましたか。夏休みの海外旅行気分を味わっていただけたら嬉しいです。次回は、熱気あふれる中国からお届けする予定です。それでは皆さん、次回の「世界の小売から」をお楽しみに。

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堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)
堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)

新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナー、クリエーティブディレクターとして、様々な企業のプロモーション、ブランディング、新規事業開発などを担当。主な仕事としては、日本初の人工知能コピーライタープロジェクト「AICO」の新規事業立ち上げをはじめ、国語の教科書に掲載された「さびしくなったら、おヘソをみよう」(日本新聞協会グランプリ受賞)、『One Show 展』(カンヌゴールド)、『JRA進撃の有馬記念』、IBM Watsonハッカソン『日本IBM賞』、宣伝会議第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。マレーシアのELM Graduate SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は「消費、そして地域を元気にする」をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズにて、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。クリエイティブコーチとしても活動。またオランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで海外リテイルのトレンドについても執筆や講演など精力的に活動中。主な連載『VUCA時代の小売と消費』(ダイヤモンド社)、『世界の小売から』(宣伝会議 AdverTimes)等

堤 藤成(フェズ クリエイティブ・ディレクター/PR プランナー)

新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナー、クリエーティブディレクターとして、様々な企業のプロモーション、ブランディング、新規事業開発などを担当。主な仕事としては、日本初の人工知能コピーライタープロジェクト「AICO」の新規事業立ち上げをはじめ、国語の教科書に掲載された「さびしくなったら、おヘソをみよう」(日本新聞協会グランプリ受賞)、『One Show 展』(カンヌゴールド)、『JRA進撃の有馬記念』、IBM Watsonハッカソン『日本IBM賞』、宣伝会議第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。マレーシアのELM Graduate SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は「消費、そして地域を元気にする」をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズにて、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。クリエイティブコーチとしても活動。またオランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで海外リテイルのトレンドについても執筆や講演など精力的に活動中。主な連載『VUCA時代の小売と消費』(ダイヤモンド社)、『世界の小売から』(宣伝会議 AdverTimes)等

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