環境や社会に配慮したビジネス構造を根本から見直し、サステナビリティを利益につながる事業の本丸とするためには。また「広報部門」ができることとは。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスの坂野俊哉氏、磯貝友紀氏に聞きました。
本記事は、月刊『広報会議』2021年8月号(7月1日発売)からダイジェストでお届けします。
Q なぜ今サステナビリティ経営が重視されているのでしょう?
A ステークホルダーがサステナビリティを重視、企業存続の必須条件に
地球の上に、私たちの社会があり、その上で経済活動が成り立っています。イメージしてほしいのは、親亀(地球)の上に、子亀(社会)、その上に孫亀(経済)が乗る様子(図1)です。
今、私たちに迫り来るのは「親亀こけたら皆こける」の状況。つまり、地球環境や社会価値を毀損したら、経済活動自体が成り立たなくなるということです。
産業公害が多発した高度成長期と比較して、現在の環境問題は、その規模がどんどんと拡大しています。
例えば気候変動問題は、このまま対策しなければ、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が提示した最悪シナリオでは、2100年までに地球の平均気温が4度前後上昇すると予測されています。北極の氷は解け、永久凍土が融解し、未知のウイルスが拡散……。こうした負の連鎖が生じるようなことがあれば、経済活動どころではありません。
このような予見もあることから、経済活動を長期で継続するには、環境変化を経営に取り込まざるを得ません。その変化は10年、20年かかりますので、経営資源の配分は当然「長期視点」で行う必要があります。温室効果ガス排出のような、経済活動が外部に与える負荷・悪影響(外部不経済)については、地球の自浄作用の水準を超える状況ですから、企業の負担で差し引きゼロに戻さないといけません。
近視眼的な思考で「来期の売上」を確保しようと外部不経済を放置し続けていると「親亀こけたら皆こける」。いずれ自らの首を絞めることになります。「外部不経済を企業の内部に取り込んで、なおかつ利益が出るビジネスモデル」に変えることが問われているのです。
もちろん「来年までに変えてください」という話ではありません。長期視点でビジネスモデルを “移行する” 考え方です。先進企業では、この「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の動きが急速に広がっています。
さらに「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」をはじめ、環境関連の国際的な規制やソフトローの動きが強化されていますので、企業はルールに対応しなければなりません。加えて投資家や金融機関も「この会社は30年後も利益を生み出しているか」といったサステナビリティ視点で投資を決める動きを強めています。
一方、消費者はエシカル消費への意識を高め、従業員や求職者もサステナビリティに配慮した企業で働きたいと考えている。もはや環境・社会問題は「遠い国のニュース」ではありません。企業の目の前にいる重要なステークホルダーが、サステナビリティを求め、声をあげているのです(図2)。
Q サステナビリティ経営が根付いている企業の特徴はありますか
A 環境・社会課題の解決も、企業の成長もトレードオンの発想を持つ
サステナビリティ経営を追求しようとすると必ず直面するのは、「コストがかかり、短期の儲けが見込めない」という壁です。「環境・社会課題の解決」と「企業の利益追求」はトレードオフと考えていると、サステナビリティの取り組みが小さなプロジェクトに閉じてしまいます。経営資源を投じ、本業のビジネス構造を持続可能なものへと見直すには「環境・社会の課題解決も、企業の利益も、同時に高める」トレードオンの発想への転換が求められます。自動車産業で言えば、CO₂排出リスクを減らしながら、環境にやさしいエンジンを開発、さらに電気自動車は大きな市場に育ちました。
短期の利益を維持しながら、長期視点ではサステナビリティに関するリスクを減らす、もしくは新しいものに代替するために経営資源の配分を少しずつトランスフォームする。そして将来的には環境・社会価値を毀損しない事業をメインにしていく。この短期と長期のバランスをどうとるかは、経営手腕が最も問われるところです。その実践で非常に重要なことは、自社はどこを目指しているのかというパーパスを、経営トップだけでなく、組織全体で浸透させることです。
「環境に関する国際ルールができたので対応しなくてはいけない。評判を落とさない程度に他社並みでやろう」。そう考える企業は少なくありませんし、外部要請に基づき取り組むこと自体に意義はあります。
一方、“本物”のサステナビリティ経営を実践する企業は、将来どうありたいか、パーパスを議論して明確にし、「これから10年かけてトランスフォームしていくぞ」という考え方を組織に浸透させ、内発的に動くことができます(図3)。
たとえ同じ業界であっても長期的に目指す到達点は企業によって異なりますから、他社と差別化できる戦略にもなります。
Q 広報部門は、どのような役割が期待されますか?
A 広報・広聴活動が企業のサステナビリティの強さに大きく影響
「環境・社会問題に対する取り組みは、すでにたくさん実施している」と言う企業に、「その売上を全部合わせるといくらですか?」と聞くと、全体の数%だった、ということがよくあります。
お金も人も投資せず、サステナブルな活動を社内活性施策のみに留めていては、“本物”のサステナビリティ経営とは言えません。しかし「今は2%ですが、私たちのパーパスに基づき、10年で50%にします」という一言があったらどうでしょう。受け止め方は、だいぶ変わります。集中的に資源を投資して、本業を通じて貢献していこうとする姿勢が伝わるからです……。
続きは、月刊『広報会議』2021年8月号(7月1日発売)をご覧ください。
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