価値観の異なる社員が納得する選考基準
この社内からの熱い反応に対して、とても嬉しく感じた反面、少し不安もよぎった。これだけ世代や性別、職種にキャリアといったバックボーンの異なる社員が多数集ったということは、全員の価値観もバラバラなはずだ(実際そうだった)。
そして、ありがたいことに——少々弱音を漏らしたかったほどに——応募いただいたアイデアは実に多かった。「100案ほどの提案があれば」という当初の想定を大きく上回り、なんと265件もの応募をいただいた。
どうしよう。熱意をもって応募いただいたアイデアが多数ひしめいている。選定作業を進めるにあたって、みんながちゃんと納得できる、そんな機軸と、体制を作らなくてはいけない。でないと、自分の社内の立場が危うい。
そんな危機感に追い立てられたこともあって、プロジェクトメンバーがいろいろと知恵を出し合ってくれた。その結果、納得して評価し、選出できるやり方として、以下のような審査基準を設定することにした。
評価軸は上記の6項目。その総合点上位から受賞候補をピックアップすることにした。また、評価軸の中でも特に「独創性」と「インサイト」は重要視し、その上位案は選定候補に入れた。「独創性」は純粋にアイデアが尖っているかという点で、また「インサイト」は提案が人を行動へと駆り立てるツボとして重要であると考えたからだ。
逆に、〈アイセイ性〉(=アイセイ独自の価値基準。社名の由来でもある「愛情と誠意」の感じられる度合い)が低いものは、アイデアとしてヒネリが利いていても、泣く泣く見送ることにもした。
選考にかかる工数も考慮
また、物理的な工数負担も考える必要があった。応募数が265案と非常に多いこともあり、業務の合間に、プロジェクトメンバー全員が全アイデアを採点するのはちょっと現実的ではなかったからだ。
そこで、応募アイデアと、評価者となるプロジェクトメンバーを4グループに分け、1次採点にあたることにした。そうすれば1グループあたりが評価するのは60案程度と現実的な負担に落ち着く。
ただし、各グループ間での採点のばらつきを防ぐために、1名だけすべてのアイデアを採点することにした。その上で、4グループが選んだアイデアの偏りや、付けた点数の偏りは必要に応じて補正し、選考の議論を進めていった。
メンバーには予め定めた評価基準について認めておいてもらったことで、論点も明確になった。さらに言うなら、我々も「何のために企画を選んでいるのか」を忘れて横道にそれることなく、議論を進められたのではないかと思う。結果として最終選考候補12案まで絞り込むことができたのだった。
3つ目のターニングポイントは、「さまざまな価値観を持つ社内メンバーが納得してアイデアを選べるよう、事前に評価の仕組みを考え抜いたこと」である。
なお、今回のコンペでは受賞者1案を選び出す前に、最終選考として5案に限り、追加プレゼンを受けることができた。事前の審査ではここまで述べたような評価の仕方で上位の案を選び抜くことはできたが、最終1案を納得して絞り込むためにプレゼン5案については、どのように選んだのか。実はそこには考え方によって2つの方法があった。
その方法とは何か。そして、どちらの方法を選んで、最終的に受賞者を選定したのか。次回は、このあたりのエピソードについてご紹介したい。
【殻を破って、一つ突き抜けた結果を得るために その3】
社内で提案されたアイデアを選ぶときには、さまざまな価値観の社員が納得できるよう、評価の仕組みを考え抜く