文字ロゴはグローバル化による「音声化」への過程
しかしながら、日本のブランドロゴに「文字のみが多い」という結論に関しては、多少異論があります。まずその文字とは日本語ではなく、アルファベットがベースだということです。そもそもアルファベットそのものが日本の中で日本語のなかで文字としてひらがな、カタカナ、漢字と区別されています。アルファベットはその意味で、日本の外に対して示すものとして英語として「記号化」されているからです。
このあたりは日本のブランドロゴの歴史的変遷を見るべきかもしれませんが、そもそも企業名や商品名は、主に日本語で認識されています。ソニーやパナソニック(旧:松下電器・松下電工)、サントリー、資生堂など、文字だけのブランドロゴとして挙げられている企業は、アルファベット表示されたロゴをみても、日本語ではカタカナ、漢字などの組み合わせで脳内では認識されるので、ある意味ではアルファベット文字自体が「シンボル」なのです。
もちろんこれはグローバル化の波の中で起こったことで、アルファベットによる日本企業のブランドロゴ化は、日本企業の国際的な進出が背景になっています。例えば松下電器が1920年代から日本国内向けに使っていたナショナルという商標が、アメリカでは使用できなかったことからパナソニックというブランド名が国際的に使われ、最終的に社名として統一的に使用されることになったわけで、そのような企業の歴史的背景があるわけです。
日本ではこのアルファベットを用いたグローバルで視認、発音されるロゴを積極的にデザインし直すことが、「コーポレートアイデンティティ(CI)」として、70年から90年代にかけて盛んにおこなわれるようになりました。その意味ではグローバルに進出するような大企業のブランドは、一度日本語を離れてアルファベットに記号化されているというプロセスを経ていると言えます。この傾向は、アルファベットが言語的に使われない、非西欧圏の国にも言えるはずで、たとえば韓国や中国の企業もグローバルに進出する際には、アルファベット表記(ヒュンダイHyundai, サムスンSamsung, ファーウェイHuawei)に一度変換されています。このアルファベット化=文字化という過程は、単にロゴの視認のために使われているのではなく、まず外国人にブランド名として発音されること、音声化されることが重要だったからです。アルファベット表記のロゴというのは国際化されるための第一歩だったと言えます。
面白いことに、まずこのアルファベット化を通すことで初めて、国際的に「発音可能」になるということです。そして逆説的に言えば、いったん発音され認識されたからこそ、その音声的な特徴が、逆にその国のアイデンティティを表すことになります。アメリカでいち早くモーターバイクで有名になったHondaは、このホンダという音声のパターンそのものが「日本らしさ」を示すわけです(逆に早くからSONYというブランド名を使用していたソニーは、日本らしさそのものが音声的には感じられないブランド名です。よく知らない外国人はソニーという音声的特長だけでは、日本のブランドだと認識しづらいと思われます)。
日本のファッションブランドは、国内向けに意図的にフランス語や英語を使用したブランド名を使いますが、それは音声がアイデンティティとなり、イメージを作ることを知っているからです。この人工的なブランド名の作り方で有名なものは、アイスクリームのハーゲンダッツ(Häagen-Dazs)でしょう。これは米国生まれですが意図的に北欧の都市コペンハーゲンの「音声」を真似て作られた意味のない造語です。高品質な牛乳のイメージから連想されたものです。