ブランドロゴの独自性はデジタルにおける視覚優位に適したものが選ばれる
このような独自性への回帰とは、もともとグローバル化、国際化というものが、標準化を志向し、ブランドに対して画一化を強いていたために、それに対する反動として示されます。
そもそもグローバルでブランドが比較されるということは、もともとそれぞれのブランドが異なる市場や国、文化で育った多様性を一度、西欧的なアルファベットを通して統一化されて一律に並べられることを意味します。インターブランドのグローバルブランドランキング表そのものがその特徴を示しています。その意味で、ブランド価値という米ドルベースの貨幣換算された市場的な会計的数字と、アルファベットで示されたブランドロゴはよく似ているのです。
同じ基準で並べられたブランドは、インターブランドのブランド力ランキングの表の中で再度ロゴとして並べ替えられます。この様々なロゴが並んだ空間は、まさにiPhoneが生み出した新しいデジタルスペース、アプリが並んだスクリーンのようです。ここで際立つブランドのルールとは、アルファベット化された音声よりも、より視覚的に認識しやすいものが目に留まります。中国でキャラクターがデジタル上のブランドのロゴとして使われる背景は、このようにデジタルスクリーンでの目立ち方が大事で、デジタルでは音声化(標準化)よりも視覚化のほうが優位だからと言えます。
90年代に日本でコーポレートアイデンティティが流行した背景のひとつとして、国際的な企業間のコミュニケーションでは、名刺やレターヘッドのような企業然として「真面目な印象の」文字中心のロゴが好まれたのもその理由ですが、今や世界中の誰もがスマートフォンを持つようになると、そのスマートフォンのスクリーンが世界の窓口となって、そこでの視覚的な経験が先だってブランドのイメージを作り出すように変わってきたと言えます。
その際、デジタルにおいてブランドの独自性を主張するために選ばれるシンボルの要素が、過去にそのブランドが「大人になる」ために捨て去ってきたキャラクターや文化的なデザインだったりするわけです。JALの鶴丸が典型的ですが、JASとの経営的統合という「大人になった」視点からアルファベットのJALロゴをメインに据えたものの、そのあと経営不振を通して再生する際に、もともと持っていた「らしさ」原点としての鶴丸という独自性が注目されたと言えます。
日本のブランドロゴにシンボルが少ない理由
ここで日本のブランドロゴにAppleのようなシンボルが少ない理由を考えてみましょう。これまで「文字のみ」と分類された日本のブランドは、すでに標準化されたグローバル化が進んだ日本のブランドだということです。これは一度アルファベットを通して音声化されて日本のアイデンティティが作られているので、他国のアルファベット名のブランドロゴとはその点と比べて違っています。しかし同時に通常ブランドロゴというのはこの文字のみ=アルファベット化されたものが世界標準でもあります。
今後スマートフォンをはじめとするデジタルデバイスがさらに浸透すれば、このブランドロゴに、これまでそのブランドが歴史的に持っている独自性を持つ要素がふたたび取り上げられるものが増える可能性もあります。それは日本でいえばJALの鶴丸のような「家紋」といった日本古来から伝わるデザインかもしれません。