映像ディレクター
牧野 惇氏
1982年生まれ。チェコの美術大学UMPRUMTV & Film Graphic 学科、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーションコース修了。実写・アートワーク・アニメーションの領域を自在に跨ぎ、映像ディレクション、デザインまで総合的に手掛ける。
文字、コンテ上は成り立つ描写動画になると穴が見えることも
『映像表現』のクリエイティブ・ディレクション」というテーマですが、僕は映像表現の監督(ディレクター)という立場で表現に携わっています。クライアントの担当者さんと、映像のディレクターが直接対面する機会は、通常のCM制作の現場だと撮影の現場や試写のタイミングに限られると思います。今回はこのような機会をいただいたので、僕なりの現場の声をお伝えしてみようと思います。
事業会社側の方は映像ディレクターの仕事についてあまり知らないと思います。なので、まずは僕の普段の仕事の発注からの流れを説明したいと思います。
広告制作のオーソドックスのフローは、広告主から広告のコンセプトと目的について代理店などのクリエイティブチームにプレゼンがあり、それをベースにクリエイティブチームがアイデアを考え、そのアイデアの中で広告主の伝えたいコンセプトや目的がもっとも体現されていると判断された企画が選ばれ、制作する、というものだと思います。
僕の仕事はこの後からがスタート。
その選ばれたアイデアをどのような形にしたらもっと魅力的になるかを考え、具体的に映像に落とし込む上での設計を考えていきます。クリエイティブチームから伝えてもらったアイデアの時点で、すでに”広告主の想い”はしっかりと体現されているはずなので、企画自体に口を挟むような機会はほぼないです。ですが、文字による説明と企画コンテ上の少ない絵では成立しているように見えていた企画が、いざ動画になった時に伝えたいことが伝わりにくくなっていることもあります。
例えば企画コンテの中で、「主人公とライバルが競い合う」みたいなことがサラッと一コマで書かれていたとします。そうなると、まず主人公にライバルがいるという図式をそれまでの動画内で説明し、「競い合う」という表現についても、肉体的に競い合わせるのか、精神的に競い合わせるのか、もっと間接的に競い合わせるのかなど、色々な準備要素が発生し、結局一コマでは足りなくなってしまいます。企画書の中では分かりづらくなっている穴を埋めていく作業も僕の立場では重要な仕事だと思っています。
これらの過程を経て、クライアントとクリエイティブチームで握った表現アイデアをディレクターが演出コンテへと具体化させていきます。
サービスを売る目的の広告は「記憶に残るもの」に
何かのサービスを売る目的の広告は、消費者の目を惹きつけたり、記憶に残したりすることが大事です。
そのポイントが直接そのサービスに関係ない点であっても、消費者に何かしらの影響を与えて、ふとその内容を思い出させることが結果的に広告になると思っています。広告したい商品やサービスによっては、動画の中で色々な情報の説明が必要なものもあります。その説明に尺を取りすぎると、商品的にはすごく真っ当な広告になるのですが、内容が説明くさくて印象は薄くなってしまいがちです。ひとつのものを見続けることへの集中力が希薄化しているといわれる現代に、あまり多くの説明的なカットを入れてしまうと上手く注意がひけず、見てもらえないこともしばしばです。広告するものの内容によりますが、情報は必要最低限に抑えて、演出面に注力した方が結果的に注意を引き、WebサイトなどのPV数にもつながると思います。
広告の質を上げるのは制作過程のトライ&エラー
本記事の続きは月刊『宣伝会議』8月号(7月1日発売)に掲載しています。牧野氏が実際に書いたアイデアノート、映像クリエイティブの秀逸事例も紹介しています。
月刊『宣伝会議』8月号(7月1日発売)
特集1 「不安」と消費者-生活、健康、将来の不安に寄り添う
〇コロナがもたらす「家計不安」
続く節約志向に、企業がとるべき対応とは
インテージ 田中宏昌
〇パンデミックというトラウマを抱えた世界で究極のリレーションシップ「信頼」を得る
エデルマン・ジャパン 森田尚子、廣野貴士
〇世界平均よりも高い「日本人の不安感」
危機を経ることで生まれる変革に期待
マッキャンエリクソン 洪瑋琳
特集2 「預けてもいい」と思ってもらえる関係はいかにつくれるか?
ユーザーの「信頼」が基盤のデータ利活用戦略
〇データを預けてもらってこそ事業が成り立つ
コロナ禍の2021年は「情報銀行元年」に?
日本IT 団体連盟 井上貴雄
〇「つながるドラレコ」で安全・安心を提供
損保ジャパンの信頼を生むサービス設計
損害保険ジャパン 岡根俊介、髙田華栄
シリーズ特集 「映像表現」のクリエイティブ・ディレクション