【前回】「SNSの「話題」から読み解く最新トレンド Vol.2 星野源&新垣結衣結婚で「神対応」した「どん兵衛」は、以前から話題化のエキスパートだった(後編)」はこちら
桜美林大学准教授/マーケティング・コンサルタント
西山 守
2021年4月6日にコンビニで先行発売した「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、即座に大人気となり、即出荷停止になってしまいました。
6月15日、満を持して再販されましたが、またもやすぐに完売、7月13日にも数量限定で再発売されましたが、大人気は続き、品薄の状態が続いています。
今回の「生ジョッキ缶」に限らず、過去には、2015年にサントリーから発売されたレモンジーナ、ヨーグリーナ、2016年に日清食品から発売された「カップヌードルビッグ『謎肉祭』肉盛りペッパーしょうゆ」、2017年の湖池屋の「KOIKEYA PRIDE POTATO」など、売れ過ぎて販売休止になる商品は、いつになってもなくなることはありません。
このような「事件」が起きるたびに、「わざと売り切れの状況を作って、話題づくりを狙っているのではないか?」という声が出てきます。
実際、生産・販売する商品の品薄状態を意図的に発生させ、消費者の関心や購買意欲をあおる「品薄商法」という言葉もあり、メーカー側が意図的に品薄状態を作り出しているのではないか?と疑う人も根強くいます。
しかしながら、販売休止になったメーカーの方に聞いてみると、「売れるものが売れない(あるいは売らない)のは、企業にとって損失でしかない。品薄商法などありえない」という返答が戻ってきます。たしかに、「商売」という観点から見ると、品薄商法というのは、決して賢いやり方ではないことはすぐにわかります。
SNSが普及してから、「〇〇では売り切れだった」という口コミの他、「■■には山積みされていた」という口コミも拡散するようになりました。そういう投稿を見て、「意図的に品薄感を作り出しているのではないか」と解釈される方もいるようですが、これは局所的に在庫に偏りが生じているに過ぎず、「品薄商法」とは言えません。
さて、ここからは「品薄」は本当に話題づくりにつながっているのか? ということについて考えてみたいと思います。
下図は、「生ジョッキ缶」のツイッター上の話題量の変遷です。
一見して分かる通り、発売直後に話題量が爆発的に増加し、その直後に収束し、それ以降は、さほど大きな話題にはなっているとは言えません。
実際は、2回目の発売休止の4月20日、およびその翌日の4月21日、再発売の6月15日には、1日の話題量は1万件を超えているので、必ずしも「話題量が少ない」ということではありません。しかしながら、発売時の爆発的な話題量と比べると、相対的に少なく見えてしまうのです。
なお、発売時には、アサヒビール社はTwitter上で大規模なツイート型キャンペーンを行っており、それが話題量を押し上げているところが大きいのは留意しておきたいところです。
\日本初※!#生ジョッキ缶
4月6日コンビニエンスストア先行発売?/缶ビールなのにご自宅でも
まるでお店の生ジョッキのように楽しめる
スーパードライ #生ジョッキ缶もうすぐ発売 !今ならフォロー&RTで総計100名様に #生ジョッキ缶 2本プレゼント!
応募は4月6日23:59まで!— アサヒビール ASAHIBEER (@asahibeer_jp) March 28, 2021
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あの情報番組でも取り上げていただきました!
日本初!※ スーパードライ 生ジョッキ缶
\
缶ビールなのに
ご自宅でもまるでお店の生ジョッキのように楽しめる #生ジョッキ缶新発売
一足先にお試しいただける1,000名様大募集!#ビールの常識が変わる@asahibeer_jp をフォロー
この投稿をRTで応募— アサヒビール ASAHIBEER (@asahibeer_jp) February 21, 2021
さて、最初に出荷停止が発表されたのは、発売(4月6日)からわずか2日後の4月8日後のことでしたが、それ以降は、SNS上で大きな話題になっているとは言えません。
Web記事では何度か報道があるものの、SNSでも、それに呼応して大きく盛り上がっているかというと、必ずしもそうではありません。
「生ジョッキ缶」に限って言えば、SNS上の話題の多くは、アサヒビールが行ったキャンペーンと、商品そのものが作っており、「品薄感」は、思ったほどには話題化に貢献していないようにも見えます。一方で、Web記事に関しては、「販売休止」や「再発売」に関して、何度か報道の盛り上がり見られますので、むしろ話題化はメディア報道において起きていると言えるでしょう。
「SNSは自分ゴトのメディア」、「マスメディアは世の中ゴトのメディア」という言われ方がすることがありますが、商品が購入できない状況は、消費者にとっては「自分ゴト」化しづらく、SNSで話題にするモチベーションもあまり沸かない–というのが実態ではないでしょうか。
企業側にしても、売る商品がない状態で大々的にキャンペーンを行うこともできず、「話題化施策」をやろうにもやることができません。
「数量限定」、「期間限定」、といったような、最初から計画的に供給を「限定」する施策や、「在庫僅少」といった売り文句は、話題にもなりやすいし、消費者の飢餓感を煽って購買の後押しになる場合もあるでしょう。しかし、そこに偽りがあったりする(限定という割には在庫が大量にある等)と、ネガティブな情報の方が拡散し、長期的に見ると、決して商売的に良い効果をもたらしません。
そうしたことを考えると、SNS時代になったからと言って、以前と比べて「品薄商法」が有効になる–といったことはないように思えます。
「生ジョッキ缶」が安定的に供給されるようになり、誰でも気軽に買い、飲めるようになり、SNSで飲んだ体験を投稿し合う日が早く来ないかな……と待ち望みながら、とりあえずは、再発売の日程をチェックしておきたいと思います。
西山守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。
電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。
独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。
これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト!』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。