“統合”的な視点が必要な時代 データ利活用は重要な経営課題
1990年代後半に企業がデジタル広告を活用し、データを利用しはじめてから20年以上経ちましたが、いま企業が立ち返るべきは、データは広告投資を効率化するツールではなく、社会をより良くするために活用する「資源」だということです。
マーケティングでは「広告配信をいかに効率よく行うか」など、「効率化」の道具としてデータを使用しがち。この場合、コンバージョン率などが指標となります。しかしコンバージョンしたかは、企業側の成果の指標。データ利活用の主導権をユーザーの手に委ねるべきという論調が高まる今、顧客にとっての価値を生むデータの利活用が必要です。
顧客への還元がなされないまま、データを取得し続けるのは難しいでしょう。では、データを「資源」ととらえるとどうか。私は、“社会や生活のために活用することで、新しい価値を生み出すこと”が資源の本質だと考えています。このデータを資源ととらえて商品やサービスの開発に生かし、新たな顧客体験を生み出すことが、データを提供してくれる顧客と長く関係を築くことにつながります。
また、パーソナルデータを取得する際に注意すべきポイント。これは、「透明性」に尽きると私は思います。“どのような目的で”“どんなデータを取得するのか”“それを具体的にどのように使用するのか”。これらをわかりやすく明示し、オプトアウトできる仕組みも用意する。昨今話題になることも多い「ゼロパーティーデータ」がこの考えに通ずるでしょう。人間関係と同じで、仕組みの中で気づかぬうちにデータを取得されるのではなく、素直に「協力していただけませんか?」とお願いされた方が、信頼度は高まります。
冒頭にデジタル化が始まって20年以上と述べました。これまでは、WebはWeb、広告配信は広告配信、メルマガはメルマガと、各施策単位でソリューションが生まれ、進化し、そして成熟しつつあります。そこで、これからの時代に必要なのが「統合」の視点です。しかし、あらゆる顧客接点で得たデータを統合しようとすると、現場レベルの判断だけでは立ち行かないことも多い。これがDXの推進、さらにその基盤となるデータ統合が「経営課題」であると言われる理由です。
これまで顧客データや社員のデータを扱ってきたのはいわゆる“情報システム部門”でしたが、必要なデータの種類・量が膨大になり、情報システム部門の範疇を超えてしまった。それにより「ツール」の管轄と「データ」を使用する部署と「分析」する人が異なる組織となっていることも往々にしてありますが、“統合”のためには「ツール」「データ」「分析」はセットであり、データを使用するマーケターが、いつでも見られる環境が理想です。このような環境整備は、いち現場の担当者が行うことは難しい。そのため今後は、CMOなどの経営層がこのデータ利活用を深く理解し、社内外含めた組織体制を構築することの重要性が増すのではないでしょうか。