――ECサイト「m.about」のポップアップストアを開いた背景は
森茂穗氏:新型コロナウイルス感染症の拡大で、ユーザーと実際に向き合える接点がなくなってしまったことが大きいです。ユーザーの話を直接聞くからこそ、気付けることがあります。単なる文字の回答だけでなく、その人がどんな服を着ていて、どんな雰囲気かだったり、話の内容とのギャップの有無だったり。
ユーザーとの直接の接点がなくても事業自体は回っていくのかもしれませんが、ゆくゆくはジリ貧になるのではないかと思います。
成井五久実氏:店頭では来店された方とスタッフの方とで、とても話がはずんでいたのが印象的でした。
森氏:そうなんです。ポップアップストアでは「推しのいる5人の女のコの部屋」というテーマを立てたのですが、店頭でも「推しっています?」というのが会話のきっかけになって。
私たちはいわゆる接客術を知りませんから、無理にショップ店員さんのような振る舞いはしないでおこうと決めていました。それより、同じ韓国好きというバックグラウンドを持った人間として、友人になろうとする感覚というか。
成井氏:そもそもモデルさんやYouTuberなどのインフルエンサーが、韓国で流行っているアイテムをセレクトして販売している「m.about」ですから、どのインフルエンサーが好きかなど、好きなものが共通している、ということが武器になったのでしょうね。
森氏:コロナのことがあったので最初はどうなるかと思いましたが、500人以上の人が来店してくれて本当によかったです。「no-ma」は出店に固定費がかからず、売上の30%を出店費としてお支払いする料金体系であることもチャレンジしやすい点でした。
――「no-ma」はどのような活用ができそうですか
森氏:もっと設計できていたとしたら、「no-ma」でのリアルイベントと、オンラインでのイベントをかけ合わせてもよかったかもしれません。配信もできるんですよね?
成井氏:できます。実際に、大阪出身のアーティストの方が利用されたときは、店頭でも販売した傍ら、動画を配信してネットでも販売するライブコマースを実施しました。店頭とライブコマース経由で合計600万円ほど売上があって、手応えを実感しましたね。
森氏:「m.about」でやるとすれば、韓国メイクを教えるライブ配信をやってみてもよさそうです。イベントとショップで気持ちが高まるだけじゃなくて、リアルに自分自身が変われる、違う自分になれる、という体験を提供できるのではないかと思います。
――「D to C」ブランドではストーリーが重要だと言われます
森氏:「m.about」もそうですが、私自身が大事にしているのは、ユーザーのストーリーをどう彩るか、彩っていけるか、です。変身というのはわかりやすくユーザー自身のストーリーです。服を変えたら勇気が出た、とか、行けないところに行けるようになったとか。「m.about」なら、韓国好きの人たちのストーリーをどのように彩っていけるか。
成井氏:ストーリーを彩る、とはどのような考え方ですか?
森氏:たとえば今回、韓国で社会現象となったサバイバル式デビュー番組の日本版『PRODUCE 101 SEASON2(プデュ2)』を見て、韓国のファッションに興味を持ったコがいたとして。ですが、韓国系ファッションを手持ちアイテムでサラッとコーデするのは難しいので、なかなか挑戦できずにいる人は、多いのではないかと思います。そこで、「m.about」の服を1点取り入れるだけで韓国ファッションへ一歩踏み出せるものを伝えられたら、そういったコたちのストーリーを彩ることができる。さらに言えば、韓国好き、プデュ2好き、というストーリーに、ユーザーが参加できるきっかけになるわけです。
成井氏:ストーリーを広げる、参加できる、というのはまさに、と思いました。これまで「D to C」ブランドを手がける方々と向き合ってきて感じたのは、思い入れの強さと、その背景にあるストーリーなのですが、それを広げることで生活者の彩りになる、というのがPRだし、大事なことなのだと思います。「no-ma」ではそのストーリーを消費者だけでなく、メディアに響く文脈の開発とメディアアプローチから一気通貫で支援するメニューもあるので、広報不在の「D to C」事業者様にはぜひご相談いただきたいですね。
森氏:「m.about」の次に実施した、フェムテック(女性の課題をテクノロジーで解決するサービスやモノ)のポップアップストアでは、「私は私らしく」というテーマを立てていましたね。
成井氏:一口にフェムテックといってもそれぞれのサービスやモノが持つ個性はさまざまです。それぞれが独立して出店するのではなく、統一テーマを立てることによって、商品を手にとった来店者が「私は私らしく」いたい、というストーリーの一部になる。それがキュレーションの意義で、一つひとつのプロダクトだけではなし得ない、ストーリーを広げる、ということではないかと思います。
――「no-ma」のようなオフラインの場所でストーリーに参加するのと、オンラインで発信するのとではどんな違いがありますか
森氏:前提がいらないことでしょうね。オンラインだと、多様な解釈のされ方を想定しなくてはなりません。同じメッセージでも、こうも取れるし、ああも取れるなどと考えを尽くす必要があります。それで説明やエクスキューズを足すうちに、参加感からは遠くなっていくんだと思います。オフラインの場所なら、訪れればその世界に入れますから。嫌いならわざわざ来ないでしょうし、来ても入りづらいでしょう。
成井氏:実際に足を運び、スタッフと話して買ったものって、やはり特別な存在ではないかと思います。購入前後ですら体験のひとつになるので。ただただ画面に表示されたものを消費するのとは違うのではないかと。やはりストーリーの一部になっていく、なれることが、オフラインの場所の面白さのひとつだと思います。
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