大八監督から見た役者「錦戸亮」
中村:今度はそんな大八監督から、役者・錦戸さん評も聞いてみたいんですけども、お便りも来ています、ラジオネームまさみさん。
<お便り>
大八監督に質問です。よく役者さんには憑依型・自然体・ストイック型など様々なタイプの役者さんがいると聞きますが、大八監督から見た錦戸亮さんはどんなタイプの役者さんなんですか。
吉田:僕ね、錦戸くんってもともとはミュージシャンだと思うんですよ。それでいい?
錦戸:いや、全然何でも。
吉田:優れたミュージシャンっていい俳優が多いと思うんですよね。タイミングだったり、リズムだったり、テンポだったり、すべてを音として取ってくれる。僕あんまり気持ちとかそういうことで演出しないことが多いんですよ。「こういう気持ちだからこういう顔でしょ」じゃなくて、「こういうテンポで、これぐらいの強さで」とか。自分としては音楽に対する憧れがすごく強いので、音楽のように映画を作りたいなっていう密かな願望があって。
そういう意味で、錦戸くんと仕事をすると話が早い。彼は「分かりました、とりあえず1回音出してみます」って感じだから。1回音を聞かせてくれて、「もうちょっとだけ音を短くしよう」「もっと高く・低く、こんな音色で」とか、こういうやりとりがすごくしやすいんです。
権八:面白い。感情の話はしないってことですか?
吉田:あんましないよね。
錦戸:しないですね。
権八:すごくないですか。
吉田:脚本書くときにはもちろん、感情の流れみたいなのはつくってるんです。その上で、現場のカメラの前で俳優と一緒に1番気持ちの良い音を探りたいっていう感じですね。
澤本:それは錦戸さんもそうなんですか?
錦戸:僕、今までいろんな作品に出させていただいて、演出の付け方とかは多種多様でそれぞれのスタイルがあると思うんですけど、(吉田監督は)「とりあえず、この人の手のひらの上で踊っておこう」というか。言われたらまずやれるだけやってみて、それで何か違うことがあったらまた言ってもらえればいいしって。「まずやってみよう」っていう気持ちですかね。だからそれでボンボンボン裸でぶち当たってるだけですね。
澤本:監督によって違います?
錦戸:えっとね、何て言えばいいんやろう……。裏設定みたいなのをすごく設ける人とか。例えば役柄や作品上では出てきてないけど、「この人は過去にこういう悲しいことがあって、そういうトラウマがあって、だからこのときはこういう言葉を発するんだと思うんだよね」みたいなこと言われても、「いや知らんし」って僕思っちゃうんですよ(笑)。「台本に書いてることだけでいいやん!」って思いますし。「それが全てでしょう」って思っちゃうんですけど。話の内容に絡み合ってくることなのであれば、絶対台本にも書いてあると思いますし。
吉田:『羊の木』の撮影で、誰かと気持ちや背景の話をしてるとき、横で聞いてた錦戸くんが「台本に書いてありましたよね」って言ったんです。「そう、それが言いたかった!」って思ったことを今思い出した。もちろん書いてないんです、直接は書いてない。でも「書いてあるでしょ」ってことを彼は言ってるわけです。っていうと、なかなかいい話っぽい。
権八&中村:いい話です。