日本の広告会社時代に学んだ等身大でいることの重要さ
— 日本で学んで今役立っていることは何ですか?
バカっぽい言い方になるかもしれないですが、まず「包み隠さず、正直に意見をする」ということです。アメリカで仕事をしていると、見えないところで下の人間が自分の立場を狙おうとしてくるなんて日常茶飯事です。そのような状況で部下におもねるというタイプの人がいないわけではありません。
また優しく対応することで関係を築く人も多いです。例えば、部下から提案があった時に「いいね。ただ、こんなことを考えてみた?」という返答をする人もいるものですが、私の場合は良くない場合、はっきりと「全然ダメだよね、これ」と伝えるアプローチを取ります。アメリカで働くと本当にずば抜けて頭のいい人材に出会います。そういう人とやり合っていくために自分ができることは、正直に意見を伝えることだと思っているのです。その分アメリカで仕事をしていて相手が私に対して「何を考えているんだろう?」と思うことはないはずです。「めちゃくちゃだなという人はいても、結局彼は何を言いたかったんだろうと思う人はいないはずと思えるくらい、正直でいます。」
このように考えるきっかけとなったのは、博報堂時代。振り返って見ると、若かった時の私はいつも背伸びをしていました。自分はもっと大きなことができるはずだと勘違いしていたし、自分はこういう風になりたいと思い続けていました。自分の中でこれができるはずだと思っていましたから、やってみるのですが全然うまくできなくて。また、自分はこういうことをしたいと思っても、やらせてもらえなくて、それに対してもなんで任せてくれないのかとばかり思っていました。
入社当時は一回も今では恩師となった上司と先輩の2人から褒められることのない毎日。心が折れそうになって何回も辞めようかなと思ったほどです。人ってここまで自信がなくなるのか、と思うくらいでした。自分ができると思っていたことができなくて、ミスが増えて、人前で話せなくなっていって、さらにこれまでできていたこともできなくなっていき、完全に負の循環に陥っていました。
そこである日曜日の夜に、一通りの仕事を会社で終えたのち、上司と先輩に辞めようと思っていますというメールを送ろうとした時に、タイミングよくその先輩から直前に電話がかかってきて「あの仕事、しておけって言っただろう」と叱られ…。さらにその3分後に上司からお叱りのメールが届いたんです。ここで人生の底を見ました。でも、もう先輩たちにはあきらめられているだろうと思って辞めることを伝えようと思っていた自分に、30分間も真剣に怒ってくれる人がいることのありがたみに気づきました。自分が諦めようとしている日にまで、自分のことを信じて叱ってくれる人がいるなんてありがたいなと思ったんです。そして、今までの自分は勘違いしていたなと。背伸びしていたなと。上司からもその後「自分に期待するな」と言われました。そこから等身大でいようと思うようになれました。