「小さいことから完璧に」少しずつ学ぶことを覚えていった
この経験から学んだことで、もうひとつ、今も役立っていることが、小さなこと、細かいことに誰よりも気を配ろうということです。
自分の中でこれができる、あれもできるとばかり思っていたわけですが、人生の底を身をもって体験して、最初から大きいことをやろうとして失敗し続けるくらいなら、まず当たり前のことから完璧にやろうと思うようになりました。
翌朝から取り組んだのが、誰よりも早くドアを開けること、誰よりも早くエレベーターのボタンを押すことでした。それだけやろう、それだけやったら成功だと思おうと考えるようにしました。二人が私に注意していた、小さいことをやろうと。毎日上司に、その日やったこと、やったあとに何ができたか? 何ができなかったか? そして何を学んで、次に何をするかを1年間程度、エクセルのファイルを通じて文通の様に提出をしていました。その度に毎日叱咤をもらうわけですが、これは楽しいなって思えたんです。小さなことをどんどんやって、少しずつ学ぶことを覚えていって。結局、何にもできなくていいんだと。何かができると期待されているわけではないんだ。自分はやれることをとにかく一生懸命やろうという精神を育んでもらいました。そこから全てがうまく回り始めました。
この小さいことに気をつけるという習慣は、博報堂時代の企画書づくりでも鍛えられました。広告会社は企画書で勝たないといけないわけです。企画書はまだ形になっていませんので、プレゼン時点では商品でも何でもありません。ただその商品でも何でもない企画書が広告会社にとってどれだけ大事かということを教えてもらいました。どういう風に人に伝えるのか、細かいことにどれだけ集中して取り組むことができるか。企画書の紙一枚一枚にどれだけ命をかけられるか。企画書に書いていることを本当に調べたのか。調べ倒したのか。1ミリのずれもないのか。こうした小さいことに目を向けてきた経験が今、アメリカで活きています。
— その他にアメリカでマネジメントをする上で気を付けていることはありますか。
少し綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、携わっている仕事のことを考えるよりも、一緒に働くチームメンバーが成長し、5年後、10年後に大成するように考えることを重視しています。自分の仕事は最終的に失敗してもいいから、もっとイノベーションしろ、もっと面白いものをつくれと日々伝えています。そして成長しろと。私ができることは、彼らがもっと色々な経験ができる環境をつくることです。はっきり言うことで、今私に対して苛立っている人もいるでしょう。私を引き摺り落としてやろうと思っている人もいると思います。ただ5年後に彼らが活躍してくれ、その成功を通していつか振り返ってくれて良い関係を創れればそれで良いと考えています。ナイキ時代にとにかく厳しく毎日を過ごしていたチームがあったのですが、多分毎日みんな苦しんでいたと思います。でも今ではそのチームの一人一人との関係は家族のように本当に良いものになり、皆が成功を収めている。そんな経験から自分のやり方は数年先を意識することである、と確信しています。