『コピー年鑑』をアートディレクターはどう捉えているか。それはコピーライターという「人」を探すことだと感じている。今、活気のある人の広告は?その人のコピーは?どんな新しい人が登場しているのか?……そこで自分なりに深掘りすれば、もっと欲しい感覚が生まれてくる。それはコピーのアートワークだ。その広告は本質をついているか?アイデアは?マーケの切り込みは?などをクリアした上で、それをベースとするアートだ。でも、それはただ面白ければいいということではない。なぜなら、コピーライティングは疑いもなくビジネスだからだ。
しかしその思考の過程はアートに近い。積み重ねの結果が心に届き、豊かさに繋がっていく。年鑑のページを繰っていく。すると、誰?ああ、あの人だった、あ、知らない人だ…と、ハッと立ち止まる。意外と見過ごしていたものに出会うい、そこには感じるものがある。それはまさしくコピーのアート性がなせるものだろう。年鑑の終わりには新人賞がある。未完のアートワークに遭遇する時だ。年によってここが充たされる場になる。
2020年の年鑑は、かつてないほど多くの人が講評に参加している。幾多の評価があってもそこにはその人たち分の視点が見える。その違いや面白さを執拗なほど認識させてくれた。また、図版の見せ方が美しく、流れも分かりやすく、とても気分のいいものだった。
私事になるが、これまでの年鑑に、一緒に組んできた来たコピーライターとの仕事が収録されている。その一点一点を見ると、得難い「人」に恵まれて来た幸せをつくづく感じる。コピー年鑑は、アートディレクターをはじめ多くの制作者に見て欲しい存在だ。
中島祥文(なかしま・しょうぶん)
1944年生まれ。1966年多摩美術大学図案科卒業。スタンダード通信社、デザインオフィスナーク、J・W・トンプソンを経て1981年ウエーブクリエーションを設立2001年~2011年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授・学科長、2011年より名誉教授。東京ADC最高賞(一般)、東京ADC会員最高賞ほか受賞。主な仕事に、ウールマーク、J.P.ゴルチェ、トヨタ・ウィンダム、伊勢丹、カネボウ・モルフェ、AGF・マキシム、ISUZU。ロゴデザインと広告展開を担当した仕事として、JR東日本・VIEWカード、サントリー・エルク、AIR DO、渋谷ヒカリエほか。