優れたブランドはコミュニケーションの旗印になる
片山:壊れていないのに買い替えた方がけっこういらっしゃって、エアコンの購買頻度は13年よりも少し短くなりました。コロナ禍というリスク要因をチャンスに転換できたのは、自社の打ち出し方、すなわちダイキンとはどのようなブランドであるかがはっきりしていたからです。そしてそのブランド戦略にもとづいて、意志をもった広報活動を行ったことが成功の要因といえます。
お金をかけずに、情報を報道機関というフィルターを通じて客観的に発信するのが広報だと思われていますが、それは昭和の考え方です。広報はもっと意思を持ち、戦略的にならなければいけません。メディア露出を狙う際も、関心を持ってもらえそうな情報や発信の仕方を吟味して、それに必要な予算はかけるべきです。
広告宣伝も一方的に企業が言いたいことを言うような自己満足の発信では何一つ生活者に届きません。広報も宣伝も、企業価値を上げ適正な利潤をあげて世の中に貢献するという目標を達成するために、必要な予算はかける必要がありますし、ブランド戦略が明快であることで投資したものがしっかり機能します。
「空気で答えを出す会社」は、単なるPRのフレーズや広告のためのコピーではありません。ダイキンが「空気という分野において、あらゆる社会課題を解決するために存在している企業である」というブランドパーパスを表現しています。そしてこれは会社として本気で取り組まなければいけないこと、すなわち経営戦略を落とし込んだ言葉です。日本企業はブランドづくりが苦手ですが、正しい方法でおこなえば、どんな企業でもブランドはつくれます。統合型マーケティングコミュニケーションの旗印となり、広報も宣伝もマーケティングも、組織の枠を超えてコロナ下であっても迅速に行動できたと思います。
山田:「空気で答えを出す会社」は、ダイキン内部の方々に対するメッセージとしても非常に分かりやすくて、この看板の下で自分たちはやっているのだなと、みなさんが実感されているわけですね。PRや広告というのは、企業としての目標を定めて、それに合った生活者の反応がとれるようにドキュメンタリーを紡いでいく。それに尽きるのかなと思います。
新刊『実務家ブランド論』刊行決定!9月14日発売
本書は、片山義丈さんが宣伝やコミュニケーションの仕事を通じて、長年にわたって現場目線で考え、試行錯誤しながら実践してきたブランドづくりの方法論です。
アドタイ連載「ブランドなんか大嫌いなブランド担当者が33年かかって、たどり着いたブランド論」をもとに大幅加筆したものです。
アップルでも、ナイキでもない、多くの企業でブランドをつくるとはどういうことなのか、なぜ教科書通りのブランド論を実践してもうまくいかないのか……。悩めるブランド担当者に必読の一冊です。
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