どうしてこうなった
アカツキは7月7日、スマートフォン向けゲーム『八月のシンデレラナイン』(ハチナイ)を原案としたテレビドラマ『八月は夜のバッティングセンターで。』の放送を始めた。同ゲームのマーケティング施策の一環だ。しかし、内容は一見、似ても似つかないものとなっている。
『ハチナイ』は、「青春×女子高生×高校野球」をテーマにした〈野球型青春体験ゲーム〉で、2017年に配信を始めた。ケガで選手の道を断念することになったプレーヤーが、同級生の女子キャラクターを指導、育成しながら甲子園を目指すというストーリーだ。
一方の『八月は夜のバッティングセンターで。」の舞台は番組名のとおり、バッティングセンター。『ハチナイ』に登場するような女子高生は出てこず、広告会社社員の女性や和食の修行をする女性など、基本的には野球とは無縁の社会人が登場する。一体どうしてこのようなドラマになったのか。
「結論からお伝えすると、ドラマ化の目的は、『ハチナイ』というIP(知的財産)のフィロソフィーをふだんのマーケティングでリーチできていなかった潜在層に伝えることと、認知度を向上させること」と、アカツキの後藤ヨシアキプロデューサーは語る。
「極端なことを言えば、アプリのインストールは直接の目的ではないんです。マーケティングの潮流は変化していて、広告を主な収益源とするYouTubeが『いつでもどこでも、楽しみが途切れない』というキャッチフレーズで、暗に広告が視聴者の楽しみを邪魔するものと認めたことが象徴的。強制的に見せられる広告はうっとうしいし、コンテンツに共感した状態でサービスにふれるほうが、継続率が高いという考え方が主流になると思います。一方で、コンテンツマーケティングをすればすべて解決というわけでもなく、『認知する場』と『楽しむ場』をセットで提供できなければ、ユーザーを集めることは難しい」(後藤氏)
これまで、『ハチナイ』のアニメ化、マンガ化を手がけてきた後藤氏が着目したのがドラマ化だった。
「コンテンツという視点においてIP『ハチナイ』の核はヒューマンドラマ。その部分にフォーカスして価値を伝えるのであれば、テレビドラマこそが最適なメディアのひとつではないか? と考えました。費用対効果の側面でも、単純にテレビCMを打てば伸びるというわけではなく、アニメ化はライン確保や予算といった複数の高いハードルがある中で、ドラマ化は私どもにとっても未開の領域。トライするしかないなと」(後藤氏)
いまの視聴者が求めるもの
ゲームとドラマの核心には共通点がある。それは内面的な成長、まさにヒューマンドラマだ。『ハチナイ』は単に強いキャラクターを集めて試合に勝つゲームではなく、キャラクターの葛藤やその克服などを描く点に力点を置いている。入部動機も、必ずしも野球が好きというわけではなくさまざまだ。
『八月の夜はバッティングセンターで。』のキーパーソンとなるのは、その人のバッティングを見ると悩みがわかる男・伊藤智弘(仲村トオル)。何かを抱えながら白球を叩きに現れる女性に対し、アドバイスをして悩みを解決に導いていく。決めセリフは「聞いてみるか、オレの野球論」。伊藤がこう切り出すと、画面は野球場へワープし、女性は実際に打席に立つことになる。
「本作の非現実的な演出は、説教臭くならないようにするためのポイント」と話すのは、テレビ東京プロデューサーの寺原洋平氏。『絶メシロード』『サ道』などのプロデューサーにも名を連ねている。いずれも、テレビ東京の深夜1時からのドラマ枠「ドラマ25」で放送した作品だ。
「『サ道』のサウナもそうですが、ライフスタイルに身近な題材でドラマを作るのが好きなんです。働いている人たちに向けて共感してもらえそうな作品。仕事から帰ってきて缶チューハイ片手に一息つく時間帯ですから、頭を使わずに楽しめるような、疲れずにぼーっと見られるものを視聴者は求めていると思うんです」(寺原氏)
そんな寺原氏が、「なんで思いつかなかったのかと、正直嫉妬した」と話すのが、アカツキの後藤プロデューサーの一言だった。
ロジックの限界
もともと極度のサウナ愛好者で、テレビ東京の深夜ドラマのファンでもある後藤氏は、「アニメ『ハチナイ』の製作委員会で毎週打ち合わせるたびにテレビ東京のアニメ担当者へ、『サ道』の感想を伝え続けていました」と話す。念願かなって寺原氏と対面した際、後藤氏が発したのが、
「——夜のバッティングセンターって、興味ありません?」
だった。
「『ハチナイ』の大きな特徴のひとつに、野球を通じてキャラクターが抱える悩みを解消していく点があります。バッティングセンターにも、そうしたモヤモヤをスッキリさせる側面があると思います。そこで深夜ドラマの題材としての可能性があるのではないか、と持ちかけてみたんです」(後藤氏)
これが文字通り、寺原氏の琴線にふれた。「暑い夏の湿気た空気で、バッティングセンターのライトが夜をぼわっと照らしていて、たまに打球音が響いて。一瞬で絵が見えて、俄然ドラマを作りたくなりました」と寺原氏は振り返る。感性主義的だが、しかし寺原氏はもともと数字の畑の人物だ。ドラマ制作に携わる前は、テレビ東京のeコマース担当部署に務めていた。
「ドラマもさまざまなデータを基に分析して、視聴率を取れるもの、というのが計算で割り出せるのかもしれないですが、ただ、どうもロジックの限界ってあるな、と。夜のバッティングセンターや、サウナ、車中泊など、視聴者の脳が直感的に反応するものを作るほうが、正解にすばやく近づける気がしています。私はマーケターでもないですし、かしこぶるのはやめて、直感的に反応するものを、いろいろなメディアで出していこう、そういうものが心を動かすという実例をどんどん出していこう、と考えています」(寺原氏)
「テレビ東京さんと何度も会議を重ねる中で、『居酒屋でなんでも野球に例えちゃうおじさん』と『ハチナイ』を応援してくれる『偉大な野球レジェンド』を組み合わせるアイデアが出たときには、『絶対に記憶に残る深夜ドラマになる!』と確信しました」と後藤氏は笑う。
「会議に参加していた全員が野球好き、深夜ドラマ好きだったので、毎回のアイデア合戦やキャスティングを練る時間は、まさにおじさんたちの青春でした」(後藤氏)
単なるドラマ化を超えて
「実はちょっと勝手に挑戦状だと思っているところもあります」と話すのは寺原氏だ。
「ゲームは究極的には365日24時間、張り付きで楽しめるもの。一方、テレビ番組は、言葉は悪いかもしれませんが、30分で逃げ切れる。ショットでのお付き合いです。野球を通じた成長というものをテレビにするとどう表現できるのか。視聴者をどう楽しませられるのか。逆にゲームはどうやって引きつけているのか。同じプロジェクトの中で盗もうとガメツク考えています」(寺原氏)
「テレビドラマだけを楽しんでくださる方がいても我々は歓迎します」と後藤氏は言葉をつなぐ。
「IPの楽しみ方は人それぞれ。多様なメディアから取捨選択できる状況が好循環を生むと考えています。冒頭にお話したように、IPを楽しんでいただくというのは、そういうことだからです。ドラマというメディアにおける、『ハチナイ』の最も魅力的な描き方ができれば」(後藤氏)
『八月は夜のバッティングセンターで。』イントロダクション
女子高生の夏葉舞(関水渚)が、夏休みに訳あってアルバイトをすることになったバッティングセンターには、夜になるとなぜか悩める女性たちがやってくる。バッターボックスで球を打つ彼女たちを見つめる謎の男性・伊藤智弘(仲村トオル)は、「スイングを見るだけで、その人が抱えている悩みがわかる」といい、その悩みを野球に例えた独自の「人生論」で解決に導いていく。果たして今宵はどんな悩める女性が訪れるのか? 舞と伊藤の不思議な夏がいま始まる!
スタッフリスト
- 制作
- テレビ東京、BABEL LABEL
- 企画+プロデュース
- 畑中翔太
- 脚本
- 山田能龍、矢島弘一
- 監督
- 原廣利、志真健太郎、原田健太郎
- プロデューサー
- 寺原洋平、漆間宏一、山田久人、山口修平、後藤ヨシアキ
- 出演
- 関水渚、仲村トオルほか
- 原案
- アカツキ『八月のシンデレラナイン』
- 製作著作
- 『八月は夜のバッティングセンターで。』製作委員会
お問い合わせ
株式会社アカツキ
URL:https://aktsk.jp/
『八月のシンデレラナイン』公式Webサイト
https://hachinai.com/
『八月のシンデレラナイン』採用ページ
https://hachinai.com/recruit