リモートワークが常態化する中、改めて注目が集まる従業員エンゲージメント。その向上のため、広報部門はどのようなコミュニケーション施策を実施できるでしょうか。「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」第3回では、7社の広報担当者と専門家が集まり意見交換を行いました。
従業員エンゲージメント向上プロジェクト第3回は、カルビー、スープストックトーキョー、スクウェア・エニックス、セコム、ハピネット、ファクトリージャパングループ、ユナイテッド(五十音順)の広報関連部門の担当者が集まり議論。またボードメンバーとして、メッセージの共感度を可視化する「共感モニタリング」サービスを提供する日立製作所と、ブランディング支援を行うクリエイティブエージェンシーのCINRAが参加しました。
行動変容は「意識の把握」から
「匿名で従業員エンゲージメント調査を行っているものの、会社全体の平均点が分かったところで、その数値が良いのか、悪いのか判断できず、その後どんな対策をしたらいいのか分かりづらい……」。そんな声を受け、日立製作所では新たな手法を開発・導入していると言います。その調査は記名式サーベイで、個々の従業員が生き生きと働けているか、所属する組織からバックアップされていると感じているか、をデータで可視化するというもの。「個人」と「組織」の具体的な課題を洗い出していくアプローチについて、働き方改革ソリューション本部の吉田章宏氏に解説してもらいました。
調査は大きく2つあり、1つ目は配置配属に対するフィット感についての調査。例えば、希望していることができているか(特性希望適合度)、職場メンバーが互いに思いやれる環境にあるか(相互尊重性)などを質問していきます(図1)。
図1 配置配属に対するフィット感の調査
2つ目は、生産性に対する意識についての調査。例えば、自身の役割を理解しているか(役割理解度)、自身の成長を支援してもらえていると感じるか(成長支援性)といった内容です(図2)。
図2 生産性に対する意識についての調査
「職場へのフィット感と生産性意識は、従業員エンゲージメントと業績向上に影響を及ぼすことが分かっています。従業員の行動を変えていくには、まず個々の従業員の意識がどんな状態にあるかを把握することから始める必要があります」と吉田氏は指摘します。同社での調査回答率は約9割。組織活性化を目的とし、処遇への反映は一切行わないこと、回答結果を個人にフィードバックすることを最初に伝え、回答率を高めています。
データから見えてくる打ち手
「回答した個人には、一人ひとりの強みや改善アドバイスなどをレポートにして配布しています。上司と部下のコミュニケーションもデータをもとにすると、より具体的な行動に移しやすくなります」と吉田氏。一方、上司は、自身の部下の結果を一覧で見るようにしています。組織単位で「挑戦意欲度が下がっている」など、改善ポイントが分かるようにするためです。また、職位、年代、性別など、特定の層で意識が下がっている項目がないかも分析します。例えば「若手層の事業理解度が低い」「働き方の許容性を感じていない女性が多い」など、問題のありかが見つかれば対処すべき項目を見極めることができます。
在宅勤務の長期化で雑談や部門間のコミュニケーションが減っていることを背景に「多様な人の意見を聞き、興味を持って仕事ができているか(多様性関心度)」「仕事の仲間から相互の刺激を受けているか(相互刺激感知度)」という項目が低下する傾向が見られると吉田氏は言います。「仕事仲間と一緒に取り組もうとする意識が薄れていることから、分散出社でオフィスに来るときに、チームシンキングがしやすいよう、新たなオフィス空間づくりを始めています」。
各社の取り組み
コロナ禍において、組織内のコミュニケーション量が不足しがちな中で、各社の広報部門ではどのような施策を行っているのでしょうか。
カルビー広報部では、3月に公式note「THE CALBEE」を立ち上げ、情報発信しています。「カルビーのこれまでとこれからのストーリーを語る場」と位置づけ、トップが他企業と対談するコンテンツや、商品の開発ストーリーなどを社外に公開。その内容は従業員にも読まれており、従業員が企業の理解度、愛着を深める役割も果たしています。また新しい働き方のさらなる進化を目指しオフィスをリニューアル。9月にコミュニケーションを重視した新オフィスが始動する予定です。
DX人材の育成サービスや開発・コンサルティングなどのDX支援を提供するユナイテッドでは、誕生月の従業員に本をプレゼントする制度があります。プロのブックコーディネーターが事前アンケートに基づき、適切な本を選書します。またコロナ禍においては社内のライブ配信「みどりの部屋」を週に1度、ランチタイムに実施。広報担当者の江川みどりさんが従業員をゲストに迎えて話すもので、業務で直接かかわりのない部署の人や仕事について知るきっかけをつくり出しています。
感覚とデータの融合
参加者によるディスカッションでは、各社の施策や悩みの共有が行われました。
「従業員に貸与したスマホや、店舗のPCを通じて、オンライン朝礼を実施、顔を合わせる機会をつくっています」(スープストックトーキョー)、「お店のスタッフにお客様の声を届け表彰しモチベーションを高めています」(ファクトリージャパングループ)、「記憶に残り、継続性のある施策にできるよう、読み手も施策に協力する側も楽しめる社内報コンテンツを意識しています」(スクウェア・エニックス)、「広報だけでなく事業部担当者が自由にウェブ社内報に投稿できるスタイルにしています」(ハピネット)、「社内報で長期ビジョンの内容をテーマごとに紹介する連載を行い、社内への浸透を図っています」(セコム)など、様々な取り組みが紹介されました。
CINRAの宮崎慎也氏はディスカッションを振り返り「感覚とデータ分析を融合しながら、誰にどんなメッセージを発信したらいいのかを見極め、エンゲージメントが向上する施策を生み出せると理想的ですね。組織は“生き物” ですから、それぞれの正解を常に模索し続ける必要があります。その時データが役立ちます。
メッセージの浸透・発信においては意外性も大切。突然デザインの格好いいプレゼンをするとか、社内ラジオで発信してみるとか、マンネリ化させずに関心を持ってもらえるかは、広報担当者のアイデア次第。腕の見せ所です」と話します。
次回は、どのようなメッセージなら従業員に本当に響くのか、響いていないとしたらなぜなのか、を探ります。
問い合わせ・プロジェクト参加希望の方はこちらから
従業員エンゲージメント 向上プロジェクト事務局(株式会社宣伝会議)
houjin@sendenkaigi.co.jp