世界で活躍する日本人マーケターの仕事(ユニクロUSA 武井祐治さん)前篇

念願の海外赴任の希望が叶い、アメリカへ

—アメリカに赴任したきっかけとは?

ユニクロUSAに赴任したのは2020年6月です。こちらではアメリカで展開しているユニクロの全商品のマーケティングを担当しています。日本では国内マーケットだけでなく、グローバルにおける商品マーケティングに関わっていました。グローバルヘッドクオーターという立場で各国に指示を出す立場ではあったものの、各国のお客さまの生活者感覚はなかなかつかめませんでした。学生時代にバックパッカーで海外旅行をしたことはあったとはいえ、留学経験も海外での仕事の経験もない中、やはり現地で自ら生活して現地でお客さまに接しながらマーケティングをしていくべきではないかという思いがあり、それを上司に面談時に伝えていました。アメリカに赴任していた前任者が帰任するタイミングで、希望を叶えてもらいアメリカへ異動することになりました。

赴任先の国としては特にアメリカを希望していたわけではなく、どこかでチャンスをもらえればと話していたのですが、前任が帰任することもあり、アメリカに決まりました。

アジアのマーケットでは、日本のクオリティに対する信頼感があり顧客をつかみやすい環境にあるといえます。一方、欧米マーケットではそうした土壌はなく、日本だからどうこうという要素はありません。さらに強い競合がひしめくマーケットです。アパレルブランドだけでなく、スポーツブランドにも強い相手がいます。そこで自分たちがどう勝っていくのかを考えることは、非常にチャレンジングだと思っています。

5番街にある旗艦店の外観。

—ユニクロUSAで、どのような役割を担っているのですか?

現在は主に2つの業務に携わっています。ひとつが、ユニクロがアメリカマーケットで勝っていくための全体戦略づくり。もうひとつが、そのプランに基づく商品マーケティングとインストアマーケティングの実行です。

まず、ひとつ目の全体戦略ですが、アメリカの経営陣と各部門の責任者が一同に介して策定していきます。私は商品マーケティング(とインストアマーケティング)の責任者として出席しています。この場で、ユニクロUSAのシーズン計画をつくります。対象マーケットはアメリカ全土です。

会社全体としてアメリカのビジネスをどうつくって勝っていくのか、今シーズンどれだけ売上をつくっていくのか、純利益はどのくらい確保するのか、ビジネス全体の計画策定を踏まえた上で商品計画やマーケティング戦略に落とし込みます。

この戦略にはユニクロUSAの経営戦略を落とし込むだけでなく、例えば「ヒートテック」や「ウルトラライトダウン」といった個々のブランドの成長戦略をどう描くかという積み上げの視点からも検討していきます。

この全体計画を踏まえた上で、次に個々の商品については、具体的にどのシーズンにどのようなマーケティング戦略を実施していくのかを検討。マンスリーの活動、ウィークリーの活動へ落とし込み、マーケティング部門のメンバーと実行していきます。

私はインストアマーケティングのチームも担当しているので、商品マーケティングと同様に、インストアのマーケティング戦略もチームと設計しています。

—インストアマーケティングのチームは具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

ユニクロの店舗にある、いろいろなマーケティングアセットを企画制作しています。店舗内のゾーニングやマネキンスタイルといったものは別チームが管轄しているのですが、例えば店舗内のパネルやポスターなどのグラフィック、店頭モニター、映像コンテンツなどはインストアのチームが管轄しています。

ユニクロは「情報製造小売業」を標ぼうしていて、店内においても、さまざまな情報を発信しています。インストアマーケティングはこうした情報の企画制作をやっているチームになります。

ユニクロUSAのマーケティング組織は商品マーケティング、インストア、PR、そしてデジタルの4つのチームで構成されています。この中で全体をリードするのは、商品マーケティングのチーム。そのためPRやデジタルのチームにも協力を依頼していくことになります。

次ページ 「日本に比べて低い、ブランド認知 「ユニクロでないとだめ」をつくる挑戦」へ続く

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玉井博久
玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。


*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)

* 国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。


*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)

* 国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

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