「エアリズムマスク」を武器に、ユニクロの価値をアメリカに浸透させる
こうした強みを中心に据えたマーケティングを具体的に進めていく上で着目したのが、「エアリズムマスク」でした。アメリカの人々はマスクをする習慣はありませんでしたので、コロナパンデミックが起こった当初、アメリカでどこまでマスクが必要になるかは不確かでした。
普段から私はよくGoogleトレンドを使うのですが、これで人々が何を検索しているのか、そのボリュームがわかります。調べてみるとコロナパンデミックで、アメリカでもマスクの検索数が拡大していることに気づきました。さらに競合企業もマスクを販売し始めていましたが、布マスクであり、機能が高いとはいえないものであり、私たちの商品に圧倒的なアドバンテージがあると感じました。こうした情報をデータとして経営チームに共有し、「エアリズムマスク」で思い切り勝負しようと提案。アメリカ人はマスクをつけないという「常識」から離れて、「エアリズムマスク」の可能性を信じて大きくマーケティングを拡大していきました。
「エアリズムマスク」は、欧米各社が発売している布マスクとは異なり、高い機能性を保持しており、ユニクロの特徴を認識してもらいやすい商品であるため、この商品でポジションをとることが、全体ビジネスにとっても大きな一歩になるという確信もありました。
「エアリズムマスク」は、8月末にアメリカでローンチ。マーケティングコミュニケーション活動で力を入れたのはPRです。健康に関する情報を積極的に発信しているメディアと一緒に、マスクの選び方に関する情報を発信しました。
「マスクは一日中つけていても不快にならないものがいい」、「単なる布のマスクではなく、フィルターの入ったプロテクティブなものを選ぼう」など、PRで文脈をつくっていきました。またヘルシーな生き方をしているインフルエンサーに商品を紹介してもらう活動にも取り組みました。
こうした第三者的な情報発信に加え、自分たちはデジタルやインストアで、「エアリズムマスク」の持つ機能を発信。三層構造になっており、フィルターが入っていることで、プロテクト機能はもちろん、肌面はエアリズム素材のため快適さを兼ね備えているので、こうした特長をグラフィカルに伝えながら、価格だけではない選択軸を示していきました。
—ローンチまではスムーズに進んだのですか?
どういう文言であれば、どういう注釈を入れれば「エアリズムマスク」の価値をきちんと伝えられるか、社内で議論を重ねました。結果的にプロテクティブであることも、フィルターの効能も伝えられる方法を見出すことができました。
アメリカに来てから強く感じるのは、日本にいた時ほどお客さまがユニクロを意識してくれていないということです。そこにコロナパンデミックが起き、街から人がいなくなりました。今まではSOHOや5番街に店舗を出していれば、ある程度お店に入っていただく機会を物理的につくることができていたと思います。それがロックダウンで人々が街に出ないとなると、いかにお客さまに想起され、お客さまが自らブランドにコンタクトしてくれるか、が重要となります。そのような状況下では、第一想起されるブランドが強いため、まだブランドが浸透しきっていないユニクロにとって厳しい環境だと感じていました。店舗という接点がない状態でユニクロを意識してもらうには、「ユニクロの〇〇が欲しい」と具体的な商品名を想起していただく必要があります。そこで「エアリズムマスク」に注力する判断をしたのですが、結果的に大きな売上を達成することができました。
また当初から目的としていたように、「エアリズムマスク」を通じて、ユニクロは、お客さまの快適さ、安心を考えてテクノロジーのある商品を売っているブランドなのであるということを伝えることができ、それが今後、他の商品へのエントリーにつながっていくと考えています。
玉井博久
広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。