オンライン開催はありか、なしか
2021年3月に開催された、世界最大のクリエイティブ・ビジネスの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)2021」は、全プログラムをオンラインに切り替えたものでした。
こうしたオンライン開催は、コロナ禍によらず、今後も一部定着する可能性があるかもしれません。
2021年のSXSWでは、この祭典を楽しめるようにするため、オンラインならではのプラットフォームが用意され、見たい配信をスケジューリングしたり、ほかの参加者や登壇者、出展者とつながったりすることができました。ミレニアルズのチームでは参加しませんでしたが、バーチャル空間のオースティンの街中を探索できるコンテンツもありました。
こうした点からも、オンライン開催は「あり」だと思います。以前のSXSWではオースティンの街中を駆け回る必要があったのですが、気になるセッションをつまみ食いするようにアーカイブを確認でき、便利でした。
ただし、リアルのほうが盛り上がりを体感できること、日本から視聴できるコンテンツが限られているものもあったこと、時差があったことなどを踏まえると、リアルとオンラインのハイブリッド開催が望ましいのではないかとも思います。
ミレニアル世代の私たちが関心を抱いたテーマ
2021年のSXSWのカンファレンスで掲げられたテーマは次の7つでした。
・新たな緊急事態(A New Urgency)
・テクノロジーの意義深い未来(Challenging Tech’s Path Forward)
・芸術において文化が持つ回復力(Cultural Resilience In The Arts)
・ビジネスの再生(Rebirth Of Business)
・変わりゆくエンターテインメントの風景(Transforming The Entertainment Landscape)
・断絶の中の絆(Connection In Disconnection)
・地図なき未来(An Uncharted Future)
例年、広い領域から社会として目を向けるテーマを取り上げているSXSWですが、やはり今年は新型コロナウイルスの影響や、米大統領戦やブラック・リブズ・マター(BLM)が浮き彫りにした「断絶性」、進化が加速するテクノロジーをいかに社会に実装するかがテーマとして選定されたようです。
各テーマに基づくセッションも、新型コロナウイルスが依然として世界中で猛威をふるうなか、どのようにビジネス、アートを発展させていくのか。また、浮き彫りになりつつある社会問題、環境問題について語られるセッションが多い印象でした。
セッションの数は230に上ります。私たちマッキャンミレニアルズが関心を抱いたのは、先端テクノロジーと、コロナ禍でより注目が集まるようになったサスティナブル産業、ソーシャルイシューでした。簡単に振り返ってみたいと思います。
私たちの身体はネットの一部
まずは、SXSWでは毎年恒例となっているAmy Webb氏による最新トレンドテクノロジーを紹介するセッションです。
Amyは2005年からSXSWに参加しており、毎年新しい技術トレンドのレポートを無料で公開しています。
彼女の発表の中で特に印象的だったのは「YOT」という言葉。「You of Things」――これは、〈あなた自身がデバイスのハブになる時代だ〉という意味です。
私たちはいまスマートフォンを通じてネットワークにアクセスするのが当たり前と思っていますが、実はスマートフォンの売り上げ台数は米国、世界で2018年以降下がっています。その代わりに登場したのがウエアラブルデバイス。特にARグラスやリングはAmazon、Apple、Facebookなども参戦しながら、この1、2年で普及し、裾野を広げているのです。
たとえばAmazonは生産性の悪い社員を監視するリストバンドのシステムをつくりました。TOTOの「Wellness Toilet」は便器の中にセンサーが入っており、用を足すと分析をしてくれて、健康診断に行かなくてもよい未来が来るといわれています。
「Lumen」は息を吹きかけると、心拍数や体の動き、呼吸をトラッキングしてその日の代謝を測定してくれるデバイス。体に溜まっているストレスや、その日の代謝に合わせた食事のアドバイスをしてくれる優れたデバイスです。
こうした主張を踏まえ、Amyは、「いまや私たちの身体は、You of Things(YoT)と呼ぶべきネットワークの一部となっている」と聴衆に語りかけました。そして、YoTは巨大IT企業のクラウドサーバーにつながっており、自分たちの体についての情報が彼らに送られているのもまた事実です。Amyは、「現代は、ペースメーカーをハッキングすることができる時代。今こそテクノロジーと倫理について考えなくてはならない」と指摘しています。
2020年は予想を超える出来事が世界中を巻き込みました。Amyは毎年、トレンドレポートは1つ発表するのですが、2020年は12個のレポートをまとめたそうです。これについてAmyは、「予想を超えた出来事に後押しされ、さまざまなカテゴリーのテクノロジーが進化したことが要因」と話していました。
このセッションで共有された数々の事例は、まさに人類の発展を象徴するような事例でもありながら、私たちが個人として自分を守るために情報を取り入れ、あらゆる状況に対応できるように準備していく必要性についても考えさせられるものでした。テクノロジーの進化に身を任せるのではなく、正しく自分のデータが倫理的に扱われているか、あらゆるアクシデントを想定しながらテクノロジーを利用する大切さを痛感したセッションでした。
Amyがセッションでくり返していたのは、「未来は予測するものではなく、準備するもの」だということ。今も私たちは、災害やパンデミックなど、数々の予測し得ないアクシデントが起こりうることを痛感しているさなかだと思います。そして、テクノロジーの発展も、予測しえない未来をもたらすものかもしれません。