【前回】「SNSの「話題」から読み解く最新トレンド Vol.5 東京五輪はSNSでどう語られたのか? 開会式編(前編)」はこちら
桜美林大学准教授/マーケティング・コンサルタント
西山 守
9月5日に、東京2020パラリンピックが閉幕しました。
開閉会式に関しては、パラリンピックの方は、メディアやSNSの声を見ていると、「メッセージが明確だった」、「統一感があった」、「感動した」と言った声が目立ち、オリンピックと比べても評判が良かったようです。
ただ、前編でも書いた通り、SNS上の東京2020オリンピックの開会式に関する口コミは決してネガティブなものではなく、結構な盛り上がりを見せていました。
具体的に、どのような話題が語られたのかについて、解説したいと思います。
下記のグラフは、オリンピックの開会式(開催直後から翌日)に関するツイートの話題内容の比率を集計したものです。
「入場曲・BGM」に関する話題が最も多かった(21%)のですが、MISIAによる国家斉唱(3.2%)も含めると、実に話題の4分の1近くが音楽に関する話題だったということになります。実は、この音楽に関する声は、ほとんどがポジティブなものでした。
選手入場のBGMに、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』、『モンスターハンター』など、過去の名作ゲームの楽曲が多数流れたことがゲームファンを歓喜させ、多数のツイートがなされたのです。
次に多かったのが、「入場行進・選手」(16.4%)でした。オリンピックはアスリートが主役なので、人々の関心も高いのは、当然と言えば当然なのですが、やはり、こちらの話題も大半がポジティブでした。
特に、Twitter上は、選手が身にまとっている衣装や、美女やイケメンの選手に関する話題が目立っていました。
また、入場行進で各国選手団を先導する係員が掲げるプラカードが、マンガの吹き出しを模したデザインになっていることも話題になりました。実際、「プラカード」「漫画の吹き出し」がTwitterトレンドの上位にランクインをしていました。
広告やSNSの世界では、「3Bの法則」が知られていますが、Beauty(美人)、Baby(赤ちゃん)、Beast(動物)を広告やSNSの投稿に使うと、注目されやすく、話題にもなりやすいとされています。
実は、日本においては、これら以上に話題になりやすい独自の要素があります。その要素とは、Game(ゲーム)、Animation(アニメ)、Idol(アイドル)です。私自身、ソーシャルリスニングを行っていても、これらの話題は桁違いに多いことに驚かされます。
オリンピックの開会式においても、例に漏れずゲームやアニメ(あるいはマンガ)に関する「ネタ」が、Twitterの話題の「タネ」になっていたと言えるでしょう。
その他の話題の要素に関しても見てみましょう。
「聖火リレー・ランナー」(4.6%)に関しては、最終ランナーに大坂なおみ選手が選ばれたことに関して賛否両論はありましたが、おおむねポジティブでした。
「ドローン」(3.7%)や「ピクトグラム」(2.7%)に関しても、素直に面白がる声が多く、やはり、反応はおおむねポジティブなものでした。
一方、演出、あるいはスタッフ・キャストに関する話題は、これまでの経緯や、全体の統一感やコンセプトに関して、賛否両論が見られました。
また、「挨拶・スピーチ」(2.3%)については話の長さに関して、「菅首相・小池都知事」(1.8%)について天皇陛下の開会宣言の際に起立しなかったことに対して、批判的な声が目立ちました。
全体をまとめましょう。
開会式が始まっても、これまでのコロナ禍での政治・政治家に対する不信、IOCや組織委員会に対する不満、開会式直前のゴタゴタや費やした予算に対する疑問――といった否定的な感情は完全に払しょくされたわけではないようで、開会式中もそれが吐露されている様子も見られました。
しかしながら、多くのTwitterユーザーは、オリンピックの開会式を、自分に興味・関心があるポイントを中心に、素直に楽しみ、それを素直にツイートしていたようで、開会式が進行するにつれて、その傾向は強まっていきました。
思い返すと、開会前は、東京五輪に関して語るべき話題は、組織や運営に関することくらいしかなく、しかも新型コロナウイルスの感染が一向に収束しない状況で、ポジティブなことを語れるような環境にはありませんでした。
そうした状況下で開会式が始まり、やっと別のネタが投入され、なおかつそれが新たな話題として語られることで、SNS空間の「空気感」も急速に変化していきました。
実は、私の友人・知人には、東京五輪のボランティアに応募していた人が何人もいるのですが大半の人は、開幕前にはそのことを公表せず、開幕後にやっと公表したうえで、SNS上で活動報告をアップするようになりました。
一方で、東京五輪開催に批判的な人たちは、日本人選手が活躍し、多数のメダルを獲得している間は、批判的な投稿を控えるようになりました。
SNSの黎明期、普及期は「SNSは自由にモノが言える民主的な場所」と言われてきましたが、オリンピックの開会式の話題を追いかけ、投稿者、投稿内容の変化を目の当たりにするにつけ、SNSは思った以上に、「空気感」に左右される不自由な場所であることに改めて気付かされます。
西山守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。
電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。
独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。
これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト!』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。