※本稿は広報会議2021年10月号の「広報担当者のための企画書のつくり方入門」をダイジェストで掲載します。
広報担当者にとって悩ましい「パブネタ」
広報担当者には2つのタイプの人がいる。自ら「パブリシティのネタ(パブネタ)」をつくり出せる人とつくり出せない人だ。多くの広報担当者は、自社の製品・サービスにとって良質の「記事(ニュース)」が生まれるように、社内外に網を張って「ネタ」を常に探している。「パブリシティ」になる「ネタ」がなければ、広報担当者は「広報ストーリー」を構築できない。ところが、現実問題として良い「ネタ」をつくり出すのは難しい。
どうすれば自ら「話題づくり(パブネタづくり)」ができるのか? ひとつの解決策として「調査パブリシティ」(アンケートパブリシティ)という手法をオススメすることがある。ここでは、多くの担当者が経験する「パブネタがない」時に助けてくれる「調査パブリシティ」の企画書について考えていく。
視点(1)PRに活用できる調査とは
調査活動を自社で行い、得られた結果を活用したPRを企画し、客観性の高い調査(データ)リリースとして社会に発信することで話題づくりを図ることを、「調査パブリシティ」または「アンケートパブリシティ」という。
多くのマスメディアは常に報道するための「ネタ探し」に追われている。たとえ企業が提供する「パブネタ」であっても、「なぜ今放送する必要があるのか」というポイントが明確であれば、メディアとしての客観的な視点を保ちつつ(広告枠ではない編集枠にて)報道する。
企業の広報担当者は、自分たちの商品やサービスに目新しさがなかったり、自社や商品ブランドにPRで活用できるような特別な特色がなかったりといった場合には、メディア(社会)から注目を集めるため「調査パブリシティ」を活用できる。この手法の特色は、具体的な“露出イメージ”を描いて「仮説」を立てるところにある。どういった調査結果を利用すれば、どういったパブネタ(広報ストーリー)がマスメディアやオンラインメディアを通じて広がり、自社の商品やサービスのPRに利用できるのか、事前に設計を行ってから調査データを入手する。
また、どんなに正確な調査を行ってもPRに活用できる結果が得られなかったら意味がない。どういった「切り口」での調査データを活用すれば、メディアやターゲット顧客の関心を集められるか、事前によく考えることが、調査パブリシティの企画書を作成する上でのポイントとなる。
視点2「調査パブリシティ」の流れとは?
まずPR活動の「目的」の確認が必要なことは言うまでもない。仮に「商品PR」が目的であれば、具体的にどういう商品特性をアピールしたいのか、そのためにどのような調査結果が必要なのか、想定する露出内容はどのような内容なのかの整理を行いたい。その上で、どういった方法でデータを入手するのかを決定する。
社内データの活用、または外部調査会社の活用、あるいは独自に顧客アンケート調査を行うことなどが考えられる(図2)。
次に調査方法の確定に入る。自社の持つデータを活用する場合には、社内のどこの部署が持つデータなのか。それは最新のデータなのか。外部に公開して問題ないデータなのか。分析方法に間違いや見当違いはないかなどを確認する。
自社調査のメリットは、費用をかけずに定期的に社内データを活用し、継続したパブリシティ調査を実施できることだ。長期にわたる経年変化を確認することもできる。具体的には、5年前、10年前の過去データと現在を比較した上で考察を加えるなどの話題づくりが可能となる。例えば、エンターテインメントに強みを持つ企業が、CDやDVDの売上情報や券売情報などのデータを毎週集計しリリースし、さらに5年、10年と情報を蓄積する。その結果、日本のエンターテインメント領域をリードする企業としてのブランドが確立され、こうした情報を報道したいメディアから問い合わせが来るようになる、といった成功事例もある。
一方、外部の調査会社に依頼する場合、調査会社の協力のもとで調査設計を行い、調査票(設問)を決定していく。定量調査では「はい・いいえ」「〇・×評価」「10段階評価」など計測できる方法で回答を集計し、数量的な分析を行う。この場合、回答がシンプルなために統計的なアウトプットが可能となる。毎年継続して同じ調査を繰り返すことで、過去のデータと今年のデータとの比較(クロス集計)などを行う場合もある。
一般的なオンラインでの定性調査の場合、一次調査(スクリーニング)と二次調査(本調査)とを分けて行うことが多い。対象者の条件や人数、設問数や難易度によっても抽出できるデータの出現率は変わってくる。この辺りは調査会社と共に慎重に精査を行う必要がある。また、定性調査では「はい・いいえ」では答えられないような、より深い選択や行動の理由や根拠などについて調査ができる。被験者の意見を直接聞くだけでなく、なぜその意見に至ったのかなどの背景もヒアリングすることが可能だ。単なる数値データだけではなく、対象者が言葉として語った情報を得ることができるので、パブリシティ活動を行う上で担当者がストーリーの構築をしやすいというメリットがある。予算に余裕がある場合、私は定量調査による客観データと定性調査による言語化されたインサイト(ストーリー)の両方を入手することを勧めている。
また、グループフォーカス・ディスカッションでは、対象者どうしの間で会話が予期せぬ盛り上がりが起こり、期待以上の「気づき」を得られることもある。一方で被験者による発言は、あくまで個人的なものだ。特定の被験者のコメントについて、あまり一般化して考えすぎないようにしたい。
視点(3)調査パブリシティ企画で気をつけること
例えば「消費者を対象にしたアンケート調査」(例:スーツメーカーによる新入社員に関する調査など)を行い、実施した調査結果を活用してプレスリリースなどのマスメディアに向けたパブリシティ活動を行うことを想定してみよう。まず外部調査会社に依頼して調査を行う。この調査結果に就活コンサルタントや経済学者等、専門家によるコメントや解説を加え、プレスリリースなど公開資料を作成する。
ここで大切なのは「ニュース」になる情報としての価値をいかに高めるかだ。「調査データ」や「識者の声」などを第三者的な視点として、自社が提供する「パブネタ」としてストーリーに盛り込んでいく。調査データが正確で中立的であるべきだという点に異論はないだろう。一方で、他の企業や公的団体などがすでに行っている調査と同じ切り口では意味がない。このため、調査結果については客観的、中立的であるが、調査を行う際の「切り口」は自社ならではのものでなければならない。調査パブリシティでは❶調査の切り口❷調査の正確さ❸結果の意外性があるか、の3点が重要となる(図5)。
最も優先されるべきは、どういった「切り口」で調査を行うかである。この切り口に独自性/排他性がないと、単に調査を行っただけで、すでに過去に行われた調査だったり、すでに公的機関から似たデータが提供されていたり、あるいは簡単に競合企業にもマネされてしまうことになるので気をつけたい。
続きは……広報会議2021年10月号へ。リクルートスーツに関する調査を想定したときの、パブリシティを行うときの考え方、期待通りの調査結果が出なかった場合どうするか、などを解説しています。
『広報会議』2021年10月号
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