課題は想起率の低さ
2020年度はふるさと納税が大きく伸びた年だった。総務省が7月30日に発表した20年度の受け入れ額実績は約6725億円で、19年度比で約1.4倍に伸長した。件数も同比約1.5倍の約3489万件だった。
「ふるなび」は、そうしたふるさと納税の振興・促進を支えるポータルサイトのひとつだ。2019年からは、元横綱の貴乃花光司氏を起用したテレビCMを断続的に流してきた。
しかし、運営するアイモバイル 事業企画本部セールスオペレーション部の大宅雅樹氏は、「『ふるなび』の課題は想起率の低さ」と話す。想起率の調査については、ブランド名の検索数の多寡を見ることで代替しているが、「テレビCMを流した直後でも、競合サイトのほうが多く検索されていることがわかっていた。ふだんも競合視しているサイトと比べて検索数が少ないことが悩みの種だった」(大宅氏)。
ヤフーによる分析でも「ふるなび」利用者の純粋想起で1位に挙がるのは競合サイトだった。想起率が低いままだと、そこからの検索流入も見込めない。
「これまでとは異なる施策を打つ必要があった」(大宅氏)
Yahoo! JAPANと組んだ理由
出稿するメディアを検討していく中、「アイモバイルと共同でデータを分析し、獲得できる層をつきとめてから広告出稿に至りたい」という提案をした企業があった。それがヤフーだ。
「それまでもヤフーで広告出稿をしたことがあったが、獲得効率がよかった。ただ今回は、広告を運用するだけではなく、より深い取り組みができるというご提案だったので、さらに期待感もあった」(大宅氏)
検討の結果、ヤフーの提案を受けることを決定。その決め手について大宅氏はこう振り返る。
「まずはデータ分析。当社では専門人材を割り当てて分析できるまでに至っていなかったが、ヤフーの専門部署の担当者をアサインしてもらえるのは大きかった。また、スマホ決済の『PayPay(ペイペイ)』をプロモーションに活用できる点も魅力のひとつ」(大宅氏)
さらに大宅氏の話に挙がったのは「関係性」だ。「効果があるのはもちろんだが、広告主と媒体との関係のよさは非常に大切な要素だと考えている」と同氏は言葉をつなぐ。
「ひとことで言えば、オーダーメード感。ヤフーは、当社の決裁の流れなど社内慣習をはじめ、企業としての考え方についても理解が深いと、これまでの広告出稿を通して感じていた。また、提案をいただく頻度が高く、繁忙期ともなれば毎日連絡をいただき、キーワードの追加や広告文の提案をしてくれていた。なかなか考える時間が取れない中、細かなところに手が届くアプローチがありがたかった」(大宅氏)
分析に基づく指針と手立て
ヤフーのデータソリューションサービス「DS.ANALYSIS(DS.アナリシス)」による市場構造分析の結果からわかったのは、「ふるなび」は趣味や嗜好性のあるものに関心の強い男性ユーザー層が多く、他サービスに比して女性ユーザー層が少ないことだった。さらに、検索や位置情報のビッグデータから消費者の行動を分析するデスクリサーチツール「DS.INSIGHT(DS.インサイト)」(※1)を通じて、ふるさと納税サイトを利用している女性ユーザー層は、レシピや子ども用品を検索することが多いことも見えてきた。
そもそも「ふるさと納税」は国による制度で、返礼品なども各自治体が定めているため、納税額とそれによって受け取れる品も固定されている。つまり、ほかの業種・業態に比べ、「ふるさと納税サイト」間での差異化を図りづらい性質がある。
「分析を重ねてわかってきたことがある」と話すのは、アイモバイルを担当するヤフー マーケティングソリューションズ統括本部 第三営業本部の大上野晋公氏だ。
「まず、差異化が難しいということは、浮動層を取りやすいということ。そこで、タッチポイントを増やすことを方針に加えた。また、そもそもブランドの検索数が少ないということは、一度利用してもらえば次年度以降の想起にポジティブな影響があるはず。何よりもまずは『使ってもらうこと』を重視する。それがもうひとつの方針だった」(大上野氏)
ふるさと納税サイト全般の女性ユーザー層の検索傾向を基に、レシピ系のサイトや女性利用者の多いソーシャルメディアを配信先として選んだ。さらに、流通系クレジットカードやeコマースサイトのほか、学習塾や私立幼稚園・小学校などに興味関心が高いユーザー層……と、潜在的な新規層に効率よく接触できそうなセグメントを設計し、配信していった。
大宅氏は「この施策に異論はなかった。ただ、「これは下手をするとゼロコンバージョン(=獲得なし)もありうる』という不安があったのも確か」と話す。
狙いどおりの新規ユーザー獲得
大宅氏の不安のもとは、「潜在的な新規層へのアプローチ」という点にあった。これまでは検索行動など、興味・関心を持っている人や、比較・検討にさしかかっていると思しき人、すなわち顕在化しつつある人へのアプローチに集中しており、潜在層にアプローチすることはほとんどしてこなかったのだ。
「ユーザー拡大を考えるのであれば、ぜひ潜在層へアプローチしてみるべき、とご提案していた。ただ、コンバージョンを非常に重視されていることも従前から承知していたため、『芽がなければ即座に止めましょう』と。そんな話もしていた」(大上野氏)
フタを開けてみれば大宅氏の不安は、杞憂に終わった。提案されたとおり、レシピ系サイトに前月比4倍のコストを投下したところ、コンバージョン数は実施前月比約45倍となった。
懸案だった検索動向では、前年と比較し、2020年の検索数が1.4倍に。また反応が見られた層には機動的にディスプレイ広告を配信し、ふるなびの年間コンバージョン件数は同比約3倍まで伸長した。
そして、あるサービスの利用者を対象に、抽選でPayPayボーナス10万円分が当たるキャンペーンを実施。結果、以前実施した同様の別特典でのキャンペーンと比べ、総参加人数が1.5倍に伸長、「PayPay」ブランドの強さを実感したという。キャンペーン対象となったサービスの売り上げ自体も1.3倍に増加した。
大宅氏は「さらに言えば、今回のキャンペーンで利用いただけた方々は、新規ユーザーの割合がとても高く、狙いどおりだった」と話す。
「なにより、〈プロモーションとしての健全度〉を高められたと考えている。それまではリスティング広告やアフィリエイトに偏りすぎのきらいがあった。特定の手法への依存度が高いのは危険。できるだけ獲得できるチャネルは多いほうがいい」(大宅氏)
ふるさと納税全体の需要予測を活用
「ふるなび」はヤフーとの取り組みをことしも続ける考え。挑戦するのは、ヤフーによるふるさと納税の受け入れ総額の予測データを用いた「未来予測」だ。
「このあと、検索数がどのように推移していきそうかを推定し、それに合わせて予算配分・投下を行いたいと考えている。どのタイミングでピークを設けるか、露出を強めるか。そうした戦略的な動きができるようになれば」(大宅氏)
これができれば、獲得単価(CPA)の抑制にもつながる。ふるさと納税サイトはいまなお参入のある分野であり、プレーヤーが同時期に広告を配信すれば、どうしてもCPAは高くなってしまう。風まかせではなく、予め需要の動きを読むことができれば、高止まりも防げるはずだ。
「ふるさと納税の受け入れ総額の予測については、すでにヤフーによる予測も活用されており、その精度については評価いただいている。検索推移についても、データからモデルを組めば、実現可能なことではある。さらに一歩深めた、オンライン広告のマーケティングをサポートさせていただきたい」(大上野氏)
(※1)以下が「DS. INSIGHT」での抽出結果のイメージ。例えば、ワードを「お中元」と設定した場合、ユーザーがお中元を検討する時期や、検討している商品ジャンルなどについて、以下のように可視化できる。
【事例紹介】ヤフーのデータソリューションを活用して市場と競合他社を徹底分析。課題を可視化し施策に生かして、広告効果を最大化 (株式会社アイモバイル)
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