『竜とそばかすの姫』は未来を想定して描いていたはずが「急に今日的になってきた」(ゲスト:細田守)【前編】

『サマーウォーズ』から10年、変わりゆくネットの立ち位置が映画になった

権八:もちろんインターネットの世界ということで、極めて今日的ないろんな問題意識が包含されていて。無駄なカットが1カットもない。何だろう…すごかったです……(笑)。

細田:ありがとうございます(笑)。

中村:語彙力が無くなってる(笑)。

権八:『美女と野獣』を彷彿とさせる感動的なシーンがたくさんありましたね。

細田:そうなんです。もともと、一番最初のこの映画の発想にあるのは、僕はずっと定期的にインターネットを題材にした映画をつくっていまして。一番最初は20年前の『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)、その次は2009年の『サマーウォーズ』。

権八:『サマーウォーズ』はやっぱり思い出しましたね。

細田:3回目が今回の『竜とそばかすの姫』。これが2021年というわけで、10年おきぐらいにインターネットを題材に映画をつくっていると、見えてくることがあるんです。それは20年前と10年前と今とで、インターネットは僕らにとって全然違う立ち位置になっている。立ち位置が違う分だけ、違う映画ができるだろうと思ったんです。

20年前の昔のインターネットはもっとすごく新しいもので、「若い人が新しいツールを使って新しい世界を切り開く」っていうイメージだった。でも今は誰も彼もが使ってて、しかもインターネットと僕らの日常の関係がものすごい近くなっている。そういう中で映画をつくっていけば、同じ題材でも全然違う映画ができるはず、そういうテーマで面白い映画をつくろう、って考えたのがきっかけなんですよね。

澤本:確かに『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の頃は、デカい機械に打ち込んでた。でも今回は、みんな普通にスマホを持ってる。ツールと自分との関係性も20年経ったら全く変わってるし、そこで起こる話も全然変わるんだなって。10年おきの節目にできてる映画ってこういうポジションなんだろうなって思いましたね。

中村:そうですよね。10年前の『サマーウォーズ』も全然色褪せてないですけど、あれ実はみんなガラケーですもんね。

細田:ガラケーなんですよ。つまり、2009年はiPhone3が出たばっかりのとき。でもiPhone3なんてもう忘却の彼方じゃないですか(笑)。アニメで見るとそんなに古くも感じないんですけどね。むしろガラケーを使うことがおしゃれっぽく見えたりしてるかもしれない。でも「iPhone3だけはどうしても古いな」みたいに思うかもしれませんよね。

澤本:あと思ったのは、映画とかは時代を先取って説明してる感があるんですけど、『竜とそばかすの姫』に描かれてるものは1年後とかに起こる未来じゃないですか。よくこれを「予知したな」って。脚本書かれたのは少し前だと思いますけど、ある種の予言者っぽいような映画でもある。

細田:それはやっぱり、未来のことを想定して描いてたんですよね。『竜とそばかすの姫』にはボディシェアリングっていう技術が出てくるんですけど、VRの世界に入っていくときに、ゴーグルしてるのがもうダサイっていうかカッコ悪くて。そうじゃなくて、もっと違う形でもっとカジュアルにVRの世界に入って、みんなでもう1個の現実を共有できたらいいなっていうところからアイデアが発してるんです。技術的にはまだだいぶ未来のことだし、ネットを通して遠くの人と会話することにもまだ馴染みがないけど「いずれこうなるよ」みたいな感じで脚本書いてたら、新型コロナウイルスの世界的脅威が押し寄せてきたんです。

製作の途中から僕らスタッフ同士が会えずに、リモートで打ち合わせをしなきゃいけなくなっちゃった。そうすると、打ち合わせしているのがリモートで会話するシーンで、虚実入り混じってる状態で。本当は虚の部分で描いたはずなのに、いきなり実になってるっていう。ちょっと遠くの未来を描いて想定したはずなのが、急にガバッと今日的で今に近づいてきたなっていうような中でつくるという体験が今回は多かったですよね。

澤本:仮想空間であるライブも、今「Fortnite(フォートナイト)」でも行われてて相当盛り上がってる。「普通にすぐ来る未来だ」っていう感じがあったので、ものすごいリアリティがあるんですよね。

細田:『サマーウォーズ』をつくったときも「未来のように見えて現実だよ」って言いたくてつくったようなところがあるんだけど、人によっては「すごいSF的だよね」っていう人もいて。「この人にとってはインターネット環境って遠いんだな」って思ったりした。今回はコロナ禍でおしなべてみんなが共通体験してるから、今回の『竜とそばかすの姫』という映画のインターネット世界は、みんなが同じように身近に感じてくれる土壌がもうあるのかなっていう気はしてますね。

中村:『サマーウォーズ』のときの仮想世界「OZ(オズ)」は、「こういうふうに将来なるのかもしれないな」っていう憧れに近い感覚でしたけど、今回の<U(ユー)>っていう仮想世界は「ありそうだな」っていう感じですよね。そこでいきなり大ヒットしてブレイクするような人も、現代でいうとYouTuberで普通にいる。『うっせえわ』(Ado、2020年)みたいに。

権八:僕、まさにAdoちゃんは感じましたね。つまり、ネットですごいヒットするんだけど、正体は明かさない。「みんな何者なんだ?!」ってなるんだけど、結局正体を明かさないままでもずっと人気者で、スターでいるっていうのは近いものがあるなと。本当にそういう人が現れちゃったなというか……。

細田:そうですよね。主人公・ベル役のオーディションを俳優さんやミュージシャンの人でしたんだけど、そのオーディションに来た人で「私実は顔出しNGで、謎の人物として活動してるので顔見ないでください」っていう人もいました(笑)。

中村:へー(笑)。

細田:オーディションに本人来てるんですけど。

澤本:顔見ちゃいけないんだ。

細田:そういう人が多いんだなって。でも、その気持ちはすごい分かるし、そうやって活動していくのは、理に適ってると思いましたね。

権八:現実世界と仮想空間<U>の説明がナレーションで何度か入るじゃないですか。「もう一度人生を生き直せる」とか。今って本当にそうしている人もいっぱいいますもんね。現実世界でうまくいかなくても、仮想世界の方で素性を明かさず生き生きとしてる人もいる。その辺もすごく今っぽい。でも、今っぽいってだけじゃないんです……すごいんですよこの映画は(笑)。

次ページ 「“家族”というテーマにこだわる細田監督の、娘に対する想いとは」へ続く

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