岡山大学は、1949年に、旧制官立岡山医科大学を含む5つの高等教育機関が統合され新設された。
1994年には、国立大学で初めて“環境”の名を冠した学部「環境理工学部」を設置。2017年に第1回ジャパン SDGs アワード「SDGs パートナーシップ賞」を受賞。2019年国連ハイレベル政治フォーラムではサイドイベントに参加しSDGs大学経営を世界へ発信している。現在SDGs推進研究大学としての活動が加速し、SDGsに関する取り組みが200以上行われているという。
今回は、2020年12月から2021年7月にかけて『ブランド力向上のための広報発信研修』を実施した経緯や成果を、副学長の伊野英男氏、国際部国際企画課 主任の高原順子氏に聞いた。
—おふたりはどのような役割を担っていますか。
伊野:教育担当の副学長として、岡山大学で実施される様々な教育に対して、質の保証、学内外に向けた情報発信と共有・可視化、教員のネットワーク強化・能力開発など、大学としての教育研究活動を充実発展させるためのサポート並びに企画を担っています。
大学教育の根幹を裏方としてしっかり支える、普段は見えないけれど欠かすことができない役割で重責を感じています。
高原:企画・総務部門で、主に海外大学との協定締結や来賓対応、広報などを担当しています。また、岡山大学を留学生や海外のステークホルダーに発信するために、ホームページや広報物の企画・運用やイベントの実施も担当しています。
—『ブランド力向上のための広報発信研修』を実施しようと思ったきっかけをお聞かせください。
伊野:2017年4月から4年半にわたって大学の運営に携わり、岡山大学は地域に根差し非常に安定した国立大学であると感じています。その一方で、恵まれた環境にあったからこそ広報力を伸ばす機会が限られていたことに気付きました。
例えば、岡山県内のマスコミの方から「岡山大学は広報に課題があるのではないか」と率直な意見をいただくことが何度かありました。マスコミの方から直に「本学の活動や魅力が伝わっていない」と言われるほど分かりやすい評価はなく、非常に刺激的で学びが多くありました。
こうしたきっかけが他にも様々にあって、広報力が課題という認識と、広報力を高めたい気持ちが強くなっていました。
広報力を高めるためには何が必要なのかを考えました。そこで思い至ったのは、本学には、広報のテクニック以上に「広報のマインドセット」が足りないということでした。この「広報のマインドセット」は職員に限らず教員や理事にも必要で、まずは学内に「広報のマインドセット」を持った人が増えるべきと判断しました。
—「広報のマインドセット」とはどんなことですか。
伊野:本学で行っているSDGsを推進する研究成果、産官学の共同プロジェクトなど、関係者や専門家の間では周知がされています。しかし、こうした活動が地域の方や学生などより広いステークホルダーに知られ、岡山大学の魅力を感じてもらうような情報発信はできているとは言いきれません。
ただ、本学が関わる研究やプロジェクトはいずれも、人や地域がより活性化したり、より良い生活につながるものばかりです。「社会に役立つ活動をしているのだから、その活動や成果を求めている人に届くようにより広く発信しよう」と気づいて行動できることが必要だと考えています。
—コロナ禍で目下の広報活動はどう変わりましたか。
高原:コロナ禍で所属している国際部の実務がガラッと変わりました。これまでは海外に赴いてパンフレットの配布や大学の説明を行っていました。この活動が一切できなくなり、セミナーやイベント、ミーティングはすべてオンラインになりました。ただ、オンラインで自分の思いを人に伝えることは思いのほか難しいのです。
対面であれば、雑談をする中で相手のニーズや人となりが見えてきます。オンラインでは得られる情報は限られます。これまでと同じやり方では、本学の魅力を感じ、学び舎として選んでいただくことが難しいと感じました。
—『ブランド力向上のための広報発信研修』の枠組みを教えてください。
伊野:研修後に本学を横断した立体的な広報活動ができることを目指し、理事・教員・職員から幅広く募集を募り、受講者を30人に選抜しました。
その30人が「広報のマインドセット」を身に付けられるよう、半年間 全10回の研修を行いました。また、回ごとに研修目標のKPIを定めアンケートで結果を測定し、修了日には複数のグループに分かれて岡山大学の広報戦略を立案し発表しました。
—おふたりも研修に参加されました。どのような学びを得ましたか。
伊野:今回の研修は、「発信した情報がどう伝わると本学のブランドが高まるのか、そのためにどうすればよいのか」ということに主眼をおきましたが、そのうえで3つ学びがありました。
1つめは、マーケティング・ミックスの視点で本学の活動をあらためて整理することでした。日常的に、本学の活動の「何を、誰に、どのように発信していくのか、その狙いは何か」をベンチマーキングしていく必要性を再認識できました。
こうした情報の整理を続けることで、これから岡山大学をアピールするうえで、私たち自身が本学の良さや課題を、実は十分に把握できていないのではないかと思うようになりました。
また、広報活動で発信する情報や方法について、情報量や質、レベルなどを相手のニーズに合わせることが欠かせないことを学びました。それは、まさに教育と同じだということに気づきました。
2つめは、研修をともにしたメンバーの皆さんと、ワークショップなどを通して、いつもと違う発想や意見の交換などができ、それによって広報活動の様々なアイデアが浮かんできたことです。
3つめは、教育活動と教育広報が連動しやすい表裏一体の仕組みをつくる必要があるということです。今後はSDGs推進研究大学として学生一人一人の学びの深まりを多くの方がリアルタイムに感じれる広報の仕掛け作りに注力したいと思います。
高原:私は大きく2つの発見がありました。
1点目は、準備の大切さです。私は、自分が伝えたい、やりたいことを思ったことが先行する傾向があります。しかし「広報のマインドセット」を持つことで、より良い結果を得るためには、事前に対象者にどういったニーズがあるか考え、準備する大切さを学びました。
2点目は、多様であることの重要性です。研修参加者の皆さんが職員だけでなく教員もおり本当に多様でした。最終講義で広報戦略を発表したのですが、自分と異なる視点による提案を聞き、この30人のアイデアをひとつにできたらもっと楽しく広報できるなと思いました。
—研修後、実践して成果になったと感じることや活動事例を教えてください。
伊野:岡山大学の強みや特色が何か、私を含む参加者全員が考え、キャッチフレーズで表現し、意見交換ができたことが良かったと感じています。他の参加者からのアイデアとして「地味だけど地味にすごい大学」をいう発表があり、講師も唸っていました。それを聞いて一同「確かにこういう大学になりたい」という思いの共有もできたと感じています。地方都市ゆえ特色が少ないことが逆に価値になると、その可能性を参加者全員が感じることができました。
他にも、それぞれの日々の業務について「積極的に情報発信できているのか?」と自問自答する頻度が高まりました。また今までは活動内容に主眼が置かれがちでしたが、現在では対外的な発信や、学内での情報共有のあり方にも注意が向くようなりました。
高原:私は、広報以外にも学内外の方に向けて資料作成や説明をする実務があります。そこで、内容が一度できちんと相手に伝わる資料がつくれるように心がけています。先日、上司に資料を説明したときに「こちらの聞きたいポイントをよく押さえていますね」と言葉をかけられました。研修後は修正の指示が減り、良い変化を感じています。
また、今回の研修は定員に対してかなりの応募が集まり、希望したのに参加できない同僚もいました。そこで、同じ課やプロジェクトで関わる方に私が学んだ知識や情報を少しずつ伝えています。
—これからの抱負をお聞かせください。
伊野:今回は「広報のマインドセット」を身に付け、岡山大学のブランド力を向上するための研修を実施しました。
本学は今、SDGsを推進する研究大学としてもっと成長していきたいと考えています。現在行っている様々な研修や活動を世界にもっと発信し、それによって幅広いステークホルダーの方からより高い評価を得ていくことが必要です。
また、「広報のマインドセット」を身につけ実践するのは教員・職員だけではなく、これを学生にも伝え、彼らが社会に出た先で、自らの活躍を情報発信することでも、世の中に貢献して欲しいと感じています。
これからも、本学の価値を広報・ブランディングの視点で見つめ直し、より広く深く情報が届き、そこから良い反響が得られるといった循環が生まれるよう、広報の実践力を磨いていきます。
高原:これから地域や海外に岡山大学の活動をより伝えていくために、研修で得た知識を生かして、海外大学や留学生、同窓生といった方々に、岡山大学の魅力を伝えられる、より高くエンゲージメントしてもらえるような活動をしていきたいです。留学生の方と広報活動を一緒に行う機会があるので、私が学んだことを留学生にも教えて生かしてもらうなど、周囲を巻き込んでより良い広報活動を目指していきたいです。
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