世界で活躍する日本人マーケターの仕事(アダストリア上海 小澤隆行さん)後篇

中国にウィズコロナ、アフターコロナという言葉はない!?

―5月以降はコロナの影響はないのですか?

はい、5月からは元通りになり、その後コロナパンデミックの影響はありません。日本のメディアを見ていると、アフターコロナ、ウィズコロナという言葉を聞くのですが、中国ではそういう言葉を聞くことはありません。むしろマーケットはコロナ前以上に戻っていると感じます。たしかにコロナの影響でEコマースやライブコマースが更に盛り上がったという面はありますが、それはコロナ前からすでにそういう流れにいたわけで、コロナが拍車をかけただけだと思います。社会的な出来事で新たなマーケットが生まれることは多々あります。Tmallが事業を拡大し始めたのはSARSの直後です。その頃から中国ではデジタルトランスフォーメーションの取り組みは始まっていたわけです。しかしEコマースもフードデリバリーもコロナ前から当たり前のように存在していました。そのためコロナの前後で、中国において大きな変化はないと思います。

―今の中国の暮らしはどんな感じですか?

今、外を見てもマスクをしている人は半々くらいです。公共交通機関ではマスク着用が必須ですが、それ以外はマスクがなくても生活ができます。オフィスへの出勤や外出に関しても全く制限はありません。在宅勤務が増えているわけでもありません。先月は深圳で3−4人の感染者が出たのでロックダウンになりそうした土地への移動規制はありますが、生活する上でコロナのことを加味することはありません。国内旅行も普通に戻ってきています。海外旅行だけができない状態です。

2020年の2月、3月は完全ロックダウンでしたが、昨年6月には上海市はコロナを抑え込んだと声明を発表しました。昨年までは建物に入るのに体温チェックが必要で、人の集まるイベントに対して規制はありましたので、企業活動としてはある程度の制限はあったかもしれませんが、生活者としてはあまり生活において制限されている感覚はなかったです。今年は企業活動としても制限を感じていません。

実は先週、中国のローカルメディアから取材を受けたのですが、彼らからの質問にはコロナの言葉は一言もありませんでした。すべてが前向きな話で、アフターコロナという言葉も出てきませんでした。日々の生活においてもこちらでコロナの話をすることすらありません。地域によって異なりますが、上海においてはもう終わったものという感覚です。

2か月程度でコロナパンデミックによるロックダウン生活を終えることができたため、日本や他の国と違ってあまりコロナの影響は受けていません。そのため前後で大きな変化はないと感じます。むしろ日本本社とやり取りする中で、日本が大きな変化を受けている影響もあり、日本と中国マーケットに対する意識のギャップが広がったと思います。私たちにとって中国事業は立ち上がったばかりなので攻めていきたい、どんどん事業規模を拡大していきたいと考えています。一方、日本では今もなお先行きが見えない中で、保守的な意見を聞く機会が増えているように感じています。

 

次ページ 「モノの買い方が根本的に日本と異なる中国の人々」へ続く
前のページ 次のページ
1 2 3 4
玉井博久
玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。


*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)

* 国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。


*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)

* 国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ