あなたのブランディングは、なぜ失敗するのか?――『実務家ブランド論』(片山義丈)「はじめに」より

「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

ブランド論の教科書通りにやってみても、
ブランドはつくれません!

『実務家ブランド論』
 片山義丈著
 9月14日発売
 出版:宣伝会議
 定価:1980円(本体価格+税10%)
 ISBN: 978-4883355273

今、世の中には「ブランド」という言葉があふれています。「ブランド」についての情報もたくさんあります。

「ブランドとは、差別化である」「ブランドとは、約束である」「ブランドとは、経営そのものである」「ブランドは企業の資産である」「ブランドとは、自社の製品やサービスを顧客に想起させる重要な要素である」「ブランドは、人・モノ・金・情報に次ぐ第五の経営資源である」等々、デービッド・A・アーカー、フィリップ・コトラーなど、さまざまな学者だけでなく、マーケターもそれぞれの説を唱えています。

私は、この本を手にしてくださったあなたに、最初に言っておきます。
もし、あなたが「ブランドは差別化である」とか、「ブランドは約束である」といった言説を信じているのだとすれば、絶対にブランドはつくれません。
まして「ブランドは第五の経営資源」などと言い出したら末期症状。社内で「ブランドかぶれの頭でっかち」と言われてしまいます。
世の中にある「ブランド論の本」「ブランドの教科書」を無邪気に信じて、そこに書かれていることをそのままやってみても、現実にはブランドはつくれないのです。

では、どうしたらブランドをつくれるようになるのでしょうか。

この本では、「ブランドとは実務家にとって、そもそも何なのか」をまず明らかにし、「ブランドをつくる現実的な方法」を、「難しい言葉をできるだけ使わず」に説明していきます。
どんな企業、どのような商品でも、きちんとブランドをつくることができること。これこそが、私がこの本で目指していることです。

今の時代、企業にとってブランドが重要であることは、周知の事実です。「ブランドは企業における第五の経営資源」であり、「ブランドをつくることが商品の魅力を上げる」という話がビジネスの現場では当たり前になりつつあります。
しかしながら、「第五の経営資源だから!」と意気込んで取り組むブランド戦略で多いのは、企業のロゴマークを変えることや、新しい企業スローガンをつくること。かっこよくなった見慣れないロゴと「人と地球が大好きで未来にチャレンジする」といった美辞麗句が並んだ新しいスローガンができあがるだけで、第五の経営資源といえるような価値は生まれていません。あるいは、「商品のブランド力を高める!」と言いながら、結果的には「ブランド広告」という名の、商品を売ることにまったく貢献しない、かっこいいだけのイメージ広告をつくって終わりになってしまう。
これらの間違ったブランドづくりの取り組みが、世の中にはあふれています。

私はダイキン工業(世界ナンバーワンのエアコンのメーカーです)で33年間、ブランドにかかわる仕事をしています。企業ブランドの構築を中心に、ルームエアコンの新ブランドである「うるるとさらら」の導入、ゆるキャラの「ぴちょんくん」の誕生にも携わってきました。自分で言うのも何なのですが、まじめな一面もあり、よりよいブランドをつくりたいと100冊以上のブランド論の本を読み、さまざまなブランド戦略を論じるセミナーにも参加してきました。

にもかかわらず、そこで得た知識やノウハウのほとんどが、実際のブランドづくりではなかなか周囲から理解されません。ブランド論の本に書かれている方法論を展開しようにも、うまく進みませんでした。正しいことをやっているはずなのに、なぜなのか…?自分の能力が足りないからなのか、自分の会社が特別なのだろうか……とずっと悩み続けてきましたが、他社のブランド実務家に話を聞くと、みんなが私と同じことで悩んでいる。

先ほど、「これらの間違ったブランドづくりの取り組みが、世の中にはあふれています」などと上から目線で偉そうに書きました。恥ずかしながら、かつての私はこれらの間違ったブランドづくりが正しいと信じていたので、長きにわたり無邪気にやり続けていました。美辞麗句が並んだ何となくかっこいいだけの新しい企業スローガンをつくろうとしたり、「ブランド広告」だからといって商品を売ることにまったく貢献しない、見栄えのいいイメージ広告をつくったり、最新のデジタル技術を活用した使い勝手の悪いWEBサイトを立ち上げたり等々、長年にわたってしくじり続けてきたのです。だから本当に何をやっても、ブランドづくりがうまくいきませんでした。周囲から「ブランドかぶれの頭でっかち」と言われたのは、何を隠そう、かつての私のことなのです。もうブランド担当をやめたいと思う日々が長く続いていました。

世の中にある「ブランド論の教科書」に書かれている本当の意味や、ブランドをつくる実務家としての方法論がわかったのは、今から5年前です。実に28年もかかってしまいました。貴重な人生の多くの年月を無駄にしてしまったことになります。もっと早く世の中のブランド論の本当の意味がわかっていたらと、残念でなりません。
そこで今ブランドで困っている方や、これからブランドにかかわる方々から、私がかつて抱えていた悩みがなくなるように、自分自身の経験をふまえた「実務家に向けたブランド論」をまとめることにしました。

この本では、「世の中にあふれるさまざまなブランド論」や「ブランドの教科書」をひとまとめに「教科書ブランド論」と定義します。そして私が実際に現場で悪戦苦闘し、33 年かかってやっとわかったブランド論を「実務家ブランド論」と名づけました。
実務家ブランド論によって、私のような失敗や無駄な回り道をせずに皆さんのブランドづくりが進むことになれば、こんなにうれしいことはありません。

(この続きは、現在発売中の「実務家ブランド論」に掲載しています)

本書の目次

はじめに
 
第一章 教科書ブランド論でブランドはつくれない理由
1-1 なぜ、あなたの会社はブランドがつくれないのか?
あいまいな「定義」が引き起こす問題
1-2 あなたの企業・商品・サービスは凡人です!教科書ブランド論が与える幻想
1-3 目的が不明瞭なまま始まるブランドプロジェクトの末路
1-4 気づけば社内から総スカン!?ブランド実務家が“孤立する”理由
1-5 意外すぎるブランドの正体!実務家のための泥臭いブランド定義とは?
1-6 どうしてブランドを「妄想」と定義したのか
1-7 ブランドの階級は5階層。凡人企業がブランドづくりで目指すべきものは?
1-8 「実務家ブランド論」におけるブランドをつくる目的とは?
1-9 なぜ、実務家はブランドづくりを間違えてしまうのか?

〈コラム〉乱用されている「ブランド」という言葉。その正体と、つきあい方

 

第二章 実務家ブランド論における「ブランドの土台」とは
2-1 「機能的価値」よりも「情緒的価値」が高い異常な時代
2-2 実務家ブランド論のブランドづくりはまず土台から
2-3 存在価値(ブランドアイデンティティ)がブランドづくりの成否を決める
2-4 凡人の「存在価値」を意味あるものに変換するのが、「約束」
2-5 「人格・個性」を偽ると、ブランドづくりは失敗します。
2-6 SDGsで、ブランドなんかつくれません!

 

第三章 実務家ブランド論のブランドづくりの方法
3-1 ブランド「戦略」不在の、ブランドづくりの大罪
3-2 そもそもブランドはどうやってできる?
3-3 ブランドづくりは、「方程式」に基づいて進めよう
3-4 「目指すブランド」は、生活者からどんな企業・商品と思ってほしいのか!
3-5 トリプルメディアで「ブランド」を伝える
3-6 貯める力を強くすることがブランドづくりの極意
3-7<まとめ>実務家ブランド論のブランドのつくり方


[特別対談] 田中洋教授×片山義丈
平凡な企業にとってのブランドは「妄想」という想像力から生まれる

 

終章
日本におけるブランドづくりはいばらの道。
だからこそ、取り組む価値があります。

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片山義丈
ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ長

1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課、1996年広報部、2000年広告宣伝・WEB担当課長を経て、2007年より現職。業界売上第5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。統合型マーケティングコミュニケーションによる企業ブランドと商品ブランド構築、広告メディア購入、グローバルグループWEBサイト統括を担当。ブランディングの取組みはインターブランドジャパン『Japan Branding Awards』や公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会『PRアワードグランプリ』 のグランプリをはじめ多くの賞を受賞。日本広告学会員

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