1997年に創業した楽天グループは、日本発のインターネット・サービス企業として、Eコマースをはじめ、フィンテック、デジタルコンテンツ、通信など、多岐にわたる分野で70以上のサービスを提供している。また楽天会員を中心としたメンバーシップを軸に有機的に結び付け、独自の「楽天エコシステム」を形成している。「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念のもと、現在2万6000人以上の従業員を擁し、世界30カ国・地域の拠点で事業を展開している。
今回は、宣伝会議の「カスタム研修」を活用して、楽天が2021年6月から7月にかけて実施したグループ横断型の研修『– CRD Training Session – Creative Planning&Direction-「マーケティング・コミュニケーションのワンランク上のスキルが身に付く特別講座」』について、実施した経緯や成果を、クリエイティブデザイン戦略部(以降CRD)の大山達也氏に聞いた。
ー楽天グループにおいてCRDはどのような役割を担っていますか。
まず、部のミッションとして「全社クリエイティブ品質の継続的な向上・進化による、ブランド&ビジネス価値の最大化」を掲げています。
そのうえで具体的には、2003年から楽天のチーフクリエイティブディレクターを務める佐藤可士和氏がリードする楽天デザインラボをはじめ、UX戦略企画、ガバナンスを担う組織を設け、楽天グループの各事業に対して、クリエイティブ機能はもちろん、ツールやガイドラインの提供、学習機会などを提供しています。
ーグループ横断として初めて、クリエイティブ・ディレクションのスキルアップ研修を行いました。その理由は。
楽天の事業領域は多岐に渡り、かつその多くをオンライン上で提供していることから、テレビCMといったマスにリーチする接点だけではなく、日々のメールやキャンペーンなど、あらゆる接点がブランドを表現するメディアになるわけですが、これらひとつひとつの接点における「コミュニケーション」をグループ横断で企画し、管理することは現実的・理想的ではありません。
こうした背景から、デザイナーだけでなく、マーケターやプランナー、いずれは全社員が、楽天らしい企画とクリエイティブ・ディレクションのノウハウを身につけることで、お客様とグループサービスとのより良い「コミュニケーション」を構築することができるのではと考えました。同時に、こうしたスキルを身につける、高めることを、社員個人に任せるのではなく、まずはCRDで型をつくり、その型を学べる機会を研修として提供できれば、私たちのミッションでもある「全社クリエイティブ品質の継続的な向上・進化」につなげていけるのではないかと考えました。
ー研修前に工夫したことは何でしたか。
私たちが想定している各事業内の課題感を含め、事前にいくつかの事業のマーケティングやクリエイティブの責任者にヒアリングをしました。
そこで寄せられたのは、「まさにメンバーに学んで欲しいテーマだったので、全員に参加させたい」「同様の課題感を抱いていた。客観的に実践できるフレームのようなものを学ぶ機会があったらいいと思っていた」といった期待の声でした。
ヒアリングで得た声を踏まえつつ、それぞれ違うユーザー、違うコンテクストでお客様と関わる社員の誰にとっても学びとなるように、テーマと内容を熟慮しました。
最終的に講義は全3回各2時間とし、1回目にコピーやクリエイティブ表現とその考え方を学び、2回目はもう一段レイヤーを上げビジネスの課題解決としての企画・ストーリー作り。3回目にはさらに視座を上げてSDGsなど社会課題解決時代におけるインハウスクリエイターの役割を講義いただきました。さらに3回の講義後希望した社員を対象に、実際の楽天のサービスを題材として企画・ストーリーを考える少人数でのワークショップも開催しました。
ー研修後、受講者から寄せられた反響を教えてください。
まず、3回の研修で延べ1100人を超える受講者数となったことに驚きました。
一般的に研修は、受講ターゲットが広まると、満足度や効果が下がってしまう傾向があります。しかし、今回の研修は、過去のグループ横断規模の研修と比べても、高い満足度を記録することができました。
さらに、事後のアンケート結果から、大きく2点の成果がみてとれました。『型の存在』を学び、『CRDの存在や価値』を知ったということです。
『型』というのは、1回目の講座でテーマとなった考え方で、コピーなどの表現は、感性やひらめきといったセンスに依存するものではなく、一定のルール・規則があり、それを学ぶことで誰しもが良い表現をつくることができるというものですが、「クリエイティブを学ぶ機会がないまま実務に向き合っていましたが、今後は研修で学んだ型を活かします」、「型を活かすときに、うまく使えたのか、使えなかったのか、という良し悪しの判断基準が分かった」、「(非クリエイター セールス、マネジャー、ストラテジストだから)クリエイティブ・ディレクションは関係ないと思っていたけれど、プレゼンや資料作成に活かせる」といった反響があり、こちらとしても手応えを感じました。
次に、『CRDの存在や価値』については、「CRDの存在を知った」、「CRDに積極的に相談したい」、「外部の方やクリエイターの話から学ぶ機会をもっと作って欲しい」と、さらなる発展が見込めるフィードバックが多数ありました。
その他にも、受講ができなかった社員から「研修の存在を知らなかったが、受講したかった」「予定が合わなかったけれど、受講したかった」と受講できなかったことを惜しむ声も複数ありました。
ー研修後、CRDの皆さんが成果を得られたと感じることがあれば教えてください。
まず今回、「コミュニケーション」に特化した研修を実施し、これほど好評を得たことがとてもポジティブな成果だと感じています。
なぜなら、受講者の感想が単に面白かったといった表面的なものではなく、学んだ『型』を使ってみたい、といった実践につながる内容が多くを占めたからです。
このように実践につながる観点で好評を得たことで、研修を一度やって終わりではなく、何かしらの形でアーカイブ化をしてきたいと思いました。オンラインで今後の研修予定がわかる、過去の研修概要が分かる状態も整備していきたいです。
加えて、CRDがハブとなって、楽天流の企画とクリエイティブ・ディレクションの型をつくり、発信し、各事業担当者の悩みに応え、グループ内での交流やコラボレーションが生まれる機会をいっそう充実していく役割が求められていることをあらためて実感しました。
ーこれから実践していきたいこと、さらなる発展に向けた抱負をお聞かせください。
まず前提として、楽天は、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念のもと、サービスや事業運営に取り組んでいます。そして、それがユーザーの方にあらゆる接点で伝わるように、企画やコミュケーションができる人材をさらに育成していきたいです。
そのためにもまずは、今回学んだことをどれくらい業務の役に立ててもらえているかか、成果につながったかを継続的に調査していきたいと思います。また、非常に多くの社員に高い意欲をもって受講してもらえたという結果もわかりました。受講者の皆さんが今回の学びを実践し、さらにスキルアップを継続していく機会づくりに向けて、社内外の知見を集めて残し、アクセスしやすい環境を整備していきます。
こうした活動を発展させていくことで、プロダクトとコミュケーション双方で、楽天流の企画とクリエイティブ・ディレクションの型を進化させていきたいです。結果としてあらゆるユーザーの方々との接点で、さらに楽天らしい体験を提供できるよう、グループを横断して働きかけていきます。