アドタイをお読みの皆様、お疲れ様です。コピーライター/プランナーの多々良タツキ(@char_omni)です。自己紹介はこちらで割愛させていただくとして…
このコラムは、様々なアイデアマンたちにインタビューを敢行、そこから簡単な企画法を抽出するのみならず、「思考過程」そのものをコンテンツにしてみようという実験的記事です。
”明日から使える企画術”でもありつつ、もう一歩踏み込んだ「脳の作り」を意識して記事を書くという趣旨なのです。
第一回は、電通の尾上永晃さん。電通に勤める広告プランナーで話題の広告施策を連発されている方です。メガネをかけて髭をたくわえておしゃれなシャツをよく着ており、最近では北鎌倉に移住。アイデアに詰まると奥さんと話したりするらしい。今回はそんな尾上さんの脳みそを解剖したいと思います。
尾上さんが手がけた仕事のごく一部(参考記事:多々良がめちゃ好きな事例)
リラックマに癒されたくなる車内広告
アクマになったチキンラーメンのひよこちゃん
●解剖!尾上さんの思考法
尾上さん、インタビューへのご協力ありがとうございました!(いきなりキングクリムゾン!!本記事では、インタビューの様子はあえて記載しないことにしてみました。実体の無い、まとめだけの記事なのです。インタビュー部分を読むのは面倒かなと思って!尾上さんの金言を独占したいとかではないです)
さてそんなわけで。早速ですが今回分析してみた尾上さん的思考法の概略を上の図にまとめてみました。はい。僕の予想では尾上さんは3つのステップで企画を考えているんじゃないかと思います。
STEP1. 連想
どうやらアイデアを考え始める前に、アイデアのイメージだけ先に掴んでるみたいです。
”子供の目線を使おう”とか、”なんか皮肉なモチーフがいいな”とか。この連想力こそ、尾上さんの企画の秘訣だと思われます。課題からボトムアップするよりは、出口のイメージをトップダウンで想像してみるのが尾上流のようです。
後述しますが、すごいなと思ったのは「脳みそのクセ=バイアス」を意識されていたことです。自分が思い付かない領域に自覚的になること。これは真似できないんじゃないかと思いましたが、それだと記事の本懐が遂げられないので後ほど文章化します。
STEP2. 時代性
あえて時代の逆をいく企画が多い印象の尾上チームですが、むしろその時代で共感してもらえるメッセージを掴むのを特に大事にしてるみたいです。字面だけみると社会問題と結びつけがちですが、尾上さんは「日頃感じる嫌なこと」を元にしていることが多いそう。言われてみれば、社会の建前と個人の本音は相反するもの。だからこそ、「社会の建前」を逆転させれば自然と個人の本音に近づけるのかもですね。STEP1.でイメージしたものと掛け合わせて、企画の強度をあげているようでした。
STEP3. フレーム
ここは他の企画術でもよく見かける、「過去の事例から学んで、新規性を作り出す」パートです。斬新だな!と感じることも多い尾上さんの仕事ですが、やっぱり元ネタは存在するみたいです。とはいえ、その持ってき方が秀逸だからこそのアイデア。
ここはかつてまとめたところにも近いので、少々ラフに、でも、尾上さんならではの企画のカタもいくつか盗めましたので公開します。
3つをまとめると…
【課題から連想したイメージを時代性に合わせて整え、フレームで施策に落とし込む】
といったところでしょうか。
さて、なんとなく全体を見渡してみましたが…まだ「理解した」感じはしないですよね。もっと詳しくそれぞれのステップを見ていって、明日からみんなで尾上さんになりましょう。
●STEP1. 連想 – 脳のバイアスを突破してモチーフを出す
のっけからすみません、めちゃくちゃ言語化が難しいんですが…これが尾上さん最大の武器だなと思いました。尾上さんは課題を聞くと、パッと連想して企画に使えそうなイメージを探し始めるらしいんです。
それ自体は誰でもあると思うんですが、尾上さんは意図的にその連想イメージをズラそうとしているみたいなんですね。
「シャツ→ダンサー」とかだとまだ近くて、「シャツ→ナイチンゲール」みたいな。
いや、ちょっと意味がわからないですよね笑。目で見たらわかりやすいのに、すみません、写真が無いんですが…お話しした日に尾上さんが着てらっしゃったシャツ、白くて目の荒い、ガーゼみたいな質感(ここでガーゼみたいと思えるのがすごいと思いつつ)のシャツだったんです。ガーゼっぽい感じとか、白い感じとか。そのシャツを見ながらだと、確かにナイチンゲールも納得だなと思いました。…いやでも飛躍を感じますね。さすが。
他に話していて出てきたものとしては、「雨の日→ビニール傘」じゃなくて、「雨の日→ダンゴムシ大歓喜」みたいな。尾上さん最近北鎌倉に引っ越したんですが、雨の日、家の庭の石をひっくり返したらダンゴムシがたくさんいたんだそうで。「ああ、こいつら雨だと嬉しいんだな」と感じたんだとか。
どちらのエピソードにも、ちょっとズレた視点がありますよね。このキーワード、この時点ではアイデアでもなんでもないですが、例えばナイチンゲールという言葉があれば「戦場を舞台にして…」とか表現や施策を思いつくことができる。発想の起点となるモチーフがズレてるので、案が被りにくくなる見たいです。
そうです。逆にいえば、ここでモチーフが被ったら意味がない。競合が見つけられないモチーフを見つけることが大事なんですね。ここ、尾上さんは無意識にやってる感じが出てました…天才肌っぽい…。
とはいえ一応。一応、センスだけ、ではないみたいです。
その一言で片付けてしまっては本記事の意味がないので「どうやったらそのセンスは磨かれるんですか?」と質問して見ましたら…驚きの訓練法を教えてくれました。
「立川談志氏もやっていたらしいのを真似したんだけどね」とのことですが。(蘊蓄がオシャレ)
ランダムにある一つのワードを思い浮かべたら、そこからおおよそ最も遠い意味の言葉を探し、最後に二つのワードを無理やり結びつけるストーリーを頭に描くっていう訓練をしていたそうです。ヤバ。こわ。
その訓練をしないといい連想はできないんだろうか…
いや。「ワイは騙されへんで!もっと楽な方法があるはずや!」と思ったので、何回か質問をして、多分この辺は考えてるなって言うのがいくつか見えたんでメモしておきます。
一番下の「好きなもの」に関してだけ補足をば。尾上さん、街を歩いているときに見かける「長らくお世話になりました」みたいな閉店広告が気になるんだそうです。人柄が滲み出るというか、人生が見えるよね、という感じで。そんなところから、「どん兵衛閉店広告」が生まれたとか。あとはこち亀も大好きで、これは本当にエピソードを記憶してるレベルでお好きなんですが、そういう愛から「こち亀花屋敷」が生まれたり。好きの力があれば、全然関係ないアイデアを生むことができるんだなと思いました。
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人外の視点、とかは使いやすそうですね。他にも尾上(立川?)式連想訓練をすることで引き出しは増えていき「被らないキーワード」が思いつくようになる、はず。
「連想」から僕らが学べる大切なことは、まずは「被らないキーワード」を探してみるのもいいってこと。もしもその連想が得意になったら、今まで思いつかなかった企画が思いつきそうです。
●STEP2. 社会性 -今なにを言ったら跳ねるのか?
続いて考えるべきことは、社会性。リラックマの車内広告にせよ、アクマのキムラーにせよ、尾上さんが関わった仕事は共感を呼びます。なんでかっていうと、このフローが挟まってるからみたいです。
結構大事で、僕が尾上さんの企画を見て感心するのはこの部分があるからでした。
リラックマであれば広告が消費を煽ることへの懐疑、キムラーであれば現代人の避けえないストレスを描くこと、ピノであれば「仲良し」こそ今意味があるのではという着眼。
アイスらしく身近な「なかよし」を ピノ「なかよしで行こう。」
世の中に対して常に疑問を投げかける人が向いてるのかもしれません。尾上さんはかなり捻くれ者で、流行に対して懐疑的に話す人です。いや、尾上さんはって書きましたけど、世の中のオッサンは基本流行に対して懐疑的だと思うので、みんな素質があるんじゃないでしょうか。
例えば、DX。世の中はDX祭りで、DXこそ正義!みたいになってますが、「DXってつけりゃいいってもんじゃねえだろ」って結構多くの人が思ってるんじゃないでしょうか。そんな気持ちを打ち出してしまう方法ですね。
「こちとらCXじゃい」とか?「トイレをDXしてみろよ」とか?ブランドとマッチしていないと意味がないですね。うーん、次の案件で挑戦してみよう。
●STEP3. 出力ズレ -普通はこうだよね、をズラす
これは分かりやすいですね!アウトプットをどうズラすか、というSTEPです。
ここまで、イメージや社会性はメッセージを考える材料になるものでした。出力ズレはメッセージをアウトプットに落とすときに考えることです。
ここでも尾上さんは捻くれ者で、「作り方を変えてみる」「メディアを変えてみる」「ネーミングを変えてみる」などなど様々なアイデアを使ってアウトプットもズラしていきます。
せっかくなので、尾上さんの施策を見てて、ここがズラせてるよな〜ってところをピックアップしました。僕も明日から使おうと思います。
●結局、最後は精神論
はい。多々良が認識した範囲では、こんなことが尾上さんの頭の中では起きているようでした。面白いですね!!!やっぱり自分とは全然違いました。
真似…できるかなぁ…。連想ゲームはやってみたいな。
僕からみて羨ましい発想力を持つ尾上さんですが、それでもアイデア出しに悩むことはあるらしいです。そんなときどうするかと聞くと。
「お前は素晴らしい。だから必ず思いつく」と信じて考え続けるそうです。
ど根性ですね。でも、その不屈の魂こそ尾上さん最大の才能なのだろうと思いました。
最後に、今日必ず覚えて帰ろうと思ったこと。
脳のバイアスについては、もう少し研究が必要そうです。大きなバイアスから小さなバイアスまで(シャツと言われてナイチンゲールが出せないような)、さまざまなバイアスを意識して生きていくだけで違いそうだなと思ったのでした。
●おわり
いかがでしたでしょうか?普通の企画法としても使えつつ、しかしもう一歩踏み込んだこれまでにない思考法のシェアとして記事化してみました。楽しんでもらえたなら幸いです。
次回は、どなたの脳みそを解剖しましょうか。
お楽しみにしていただければ幸いです。
それではまた次回、お会いしましょう!
多々良樹(電通 プランナー / コピーライター)
プロフィール
1989年浜松生まれ。慶應義塾大学理工学大学院ではAR技術を研究したのち、2014年電通入社。広告、コンテンツ、スペースデザイン、テクノロジーなど全領域でのプランニングを得意とする。最近の仕事に、Netflixアニメブランディング、集英社ジャンプ+「ここには熱がある」など。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS/CRESTA Award/Cannes FutureLion2013/経産省Innovative Technologies/朝日広告賞/読者が選ぶ新聞広告賞など受賞多数。