「あんたが言うか問題」を避けるために
では最後の円、ブランドパーパスです。
「変えたい常識」もある、それに取って代わる「うれしい未来」もある。しかもその常識は、消費者自身もおかしいと思っていたし、その未来は、消費者自身も実は欲していることもわかった。次なる問いは、「じゃあそれって、このブランドとなんか関係があるの?」ということです。より厳密に言うと「ブランドは、その常識を変えるために貢献できるのか?」あるいは「ブランドは、その未来づくりに貢献できるのか?」という問いに対して、商品を通してきちんと答えることができるのか、と言うことです。
パンテーンの場合は、「髪」という就活との明快な接点がありましたし、美しい髪と自分らしい髪型にも深い関係があります。(実際は、より厳密に商品ベネフィットと結びつけています)。また、当コラムでも触れたポカリスエットやニューヨークタイムスは、それぞれ、「乾き」と「水分補給」、「フェイクニュースの蔓延」と「真実のジャーナリズム」、あるいはコラムでは触れませんでしたが、ゴディバの有名な「義理チョコをやめよう」キャンペーンも、「義理チョコという慣習へのしんどさ」と「本格チョコレート」。いずれも、商品カテゴリーが、ソーシャルインサイトと消費者インサイトに明快に関係しているだけでなく、商品のベネフィットを通して、そのインサイトに応えています。
これらのようにわかりやすく結びついているケースもあれば、提示されて初めて、「確かにその問題、このブランドが解決できるかも」という、「意外。でも納得!」な組み合わせもあると思います。
私が担当している宣伝会議の講座で、ブランドパーパス起点の戦略・アイデアをつくる課題をやってもらっているのですが、その中に「実家への帰省と、ジェンダー問題」という新たな課題を見つけ、その解決を旅行会社の新たなサービスに仕立て上げてきた受講生がいらっしゃいました。課題の発見も面白かったですが、その解決をきちんと商品ベネフィットに結びつけようとして、「なるほど!」と思ったものです。
また、『存在しない女たち』(キャロライン・クリアド=ペレス著・河出書房新社)というジェンダーギャップに関する書籍には「市の除雪作業とジェンダーギャップ」「都市計画とジェンダーギャップ」「職業の呼び名とジェンダーギャップ」などなど、「意外だけど、聞くと納得」な問題と解決の関係がてんこ盛りでした。
大切なのは、ブランドとその商品が、ソーシャルインサイト、消費者インサイトに応え、課題の解決や未来創造に貢献できるか?あるいは、ブランドと商品が応えられる、問題提起やメッセージになっているかどうか?そうでなければ、「言いたいことはわかるけど、それあんたが言うの?」という反応になりかねません。