「世界の小売から:中国編」もいよいよ後編となります。「前:市場理解編」では「中国市場におけるビジネス慣習の違いからEC化する中国」についてレポートしてきました。続く、「中:実践編」では「EC化する中国で勝つためのマインドセットと4つの重点領域」について論じてきました。
しかし読者によっては「私は中国でビジネスしないし関係がない」と感じていた人もいるかもしれません。そこで今回の「後:応用編」では、小売業界に特化したスタートアップでクリエイティブ・ディレクターを務める筆者(堤)が、「中国の躍進の要因」を構造化し、日本の小売やマーケティングへ応用するヒントについて語っていきます。今回の記事が、会社や個人のビジネス戦略に良い影響を与えられたら幸いです。
中国の躍進の影にある、重要なキーワードとは?
今回の「中国の小売から」の記事の中で、よく出てきたキーワードをご存知でしょうか。それは「制約」という言葉です。前編と中編を通じて、下記のような文章で登場しました。
・個人のメリットになれば組織内の既存の「制約」を越えてでも動く。
・個人のメリットになれば組織内の既存の「制約」を越えてでも動く。
・個別アプリごとで他のサービスへのリンクについての細かな「制約」が多く存在します。
・開示されたルールブック的なものはなく、実際に利用する中でわかる「制約」です。
・その「制約」は予告なく頻繁に変更されます。
・ネット集客における「制約」を十分に理解したうえでEC戦略を考える必要があります。
・BAT間の競合関係の「制約」で自社ショップへの集客方法が限定されます。
実は中国の躍進をはじめ、多くの物事の裏側には「制約」という概念が重要なトリガーになっていると私は確信しています。では実際なぜ、この「制約」が大切なのでしょうか。
皆さんは、「リープフロッグ現象」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。リープフロッグとは、蛙の跳躍のこと。つまり既存の社会インフラが整備されていない国において、新しいサービスが一足飛びに広まることをいいます。実はこのリープフロッグという結果には、「制約」という原因が隠れています。これまでの中国には多くの「制約」が課せられていました。
・偽札や偽物が横行していたという制約
・クレジットカードやATMのインフラが整っていなかったという制約
・一党独裁によりGoogleをはじめとした便利なITサービスが使えないという制約
しかし、こうした一見ネガティブに見える制約があったからこそ、不便を解消したいというモチベーションを生み、国と企業が協力し一気に中国内でのITサービスの独自の進化を生み出しました。その結果、どの国よりも進んだキャッシュレス決済社会へと移行できたのです。つまり一見不合理で不便な「制約」があったことこそが、独自のイノベーション、エコスシテムを生む生態系をつくり出す原動力になったといえるのです。