TikTokもKOL文化も芝麻信用も、「制約」から生まれた
また近年凄まじいペースで広がってきた中国発のSNSであるTiktokもまた制約が産んだものと捉えることができます。TikTokの特徴としては、60秒以内の縦型動画というフォーマットの制約が存在します。この制約は見方を変えれば、普段見ている縦型のスマートフォン画面から気軽に視聴と投稿ができるというUX環境につながってきます。こうした最適な「制約」の設計こそが、爆発的なヒットにつながっているのかもしれません。
またライブコマースを支えるKOL(キー・オピニオン・リーダー)という文化も、多くの偽物が出回る中国では企業を信頼できなかったという制約があったからだと捉えることができます。さらに17LiveなどKOLの活躍で、急速に広がったライブコマースにも強い制約が存在します。それはライブでその時間、その瞬間にしか見られないという制約です。こうした制約があるからこそ、瞬間的な熱狂を生むことができるのです。
そして、象徴的なものが、芝麻信用(セサミ・クレジット)です。これは、中国アリババグループが開発した個人信用評価システムです。アラビアンナイトの「開けゴマ」の魔法のように、この信頼スコアが高い人には、特別な優待サービスなどが受けられる社会になっています。これまでは、短期的な儲けのために騙す方が実利的だったことで「家族以外、誰も信用できない」という強烈な「制約」があったことで、逆説的に信頼の可視化というイノベーションを産んだ事例と捉えることもできるでしょう。
「制約」を逆手に取る、2つの「リフレーミング」
こうした制約をチャンスに変える思考法として、リフレーミングという心理学の考え方が参考になります。このリフレーミングには、物事の捉え方を変える「意味のリフレーミング」と、その状態が活かせるシーンを探す「状況のリフレーミング」という2種類があります。
それでは、今回の中国における具体例で見てみましょう。
意味のリフレーミング:例)「一党独裁」
これまでの意味:厳しくて自由がなさそう
↓
新しい意味づけ:官民一体となりスピード感のある経営が可能
状況のリフレーミング:例)海外ITサービスへの規制
これまでの状況:Googleなど海外の便利なサービスが使えずに不便
↓
新たに活躍できる状況:海外サービスのいいとこ取りしながら独自に進化できる状況
いかがでしょうか。こうして意味や状況を変えるだけで、「制約」に縛られてガチガチに思えた中国という環境が、イノベーションを生む有利な環境に思えてきます。
実際「ATMの普及が遅れているという弱み」に対しては、「ATMの普及を推進する」という単純な努力の方向性で頑張っていても、いつまでも中国は勝てなかったかもしれません。しかし中国は「ATMの普及が意味をなさないような解決策を目指す」という方向性でリフレーミングを行うことで、キャッシュレス決済の社会の実現というイノベーションを生み出しました。
このように弱みを努力で克服しようとするのではなく、新しい技術やアイデアで弱みを無効化する、または弱みを強みに変えることが、イノベーションの鍵だと捉えることができそうです。つまり弱みとは「次のイノベーションのチャンス」といえるのです。